年が明けた。
こいつと一緒に年明けを祝うのは、これで二度目だな。
そんなことを考えながら、向こうの方に居るを見やった。
「平助ー!」
店で何かを見つけたらしいが、大声でオレを呼ぶ。
「どうしたんだよ?」
近寄ってみると、何やら悪戯が成功したときのような顔をしていて。
不思議に思いながら言葉の続きを待っていると、補足を加えてくれた。
「このお酒ね、すっごくおいしいんだって!
今日の夜、みんなで呑まない?」
そう言いながら、一本の瓶をオレに見せる。
「お店の人の一押しらしいよ」
「ふーん」
「楽しみだね!」
「……そうだな」
があまりに嬉しそうだから、オレもいつの間にか笑っていた。
……本人は、あんま酒は得意じゃないんだけど、
みんなと一緒に呑んで、騒ぐのが好きみたいだ。
だから、こんなに嬉しそうにしているんだろう。
「よし、次はあっち!」
「って、まだ買うのかよ?」
「そうだよ、決まってるでしょ?」
久しぶりに出かけたんだから、と言いながらはどんどん先へ進んでいく。
「…………ったく、仕方ねぇなぁ」
買い物に付き合わされるのは大変だけど、それでもオレは文句を言えないでいる。
理由は簡単だ。相手が、だから。
「いっつも勝てないもんなぁ……」
剣の腕とかじゃなくて。
は、オレよりずっと上の方に居る気がするんだ。
気遣いだとか考え方だとか、もういろんなことを含めて。
オレはきっと、あいつには敵わない。
「って、!ちょっとは待ってろっつうの!」
オレのことなんかお構いなしで歩いて行くに向かって叫んだ。
「そろそろ帰ろっか」
もう日も暮れようとしていたとき、がそう言ったから。
オレたちは、屯所までの道を歩き出した。
「付き合ってくれてありがとう、平助。
巡察が続いてて疲れてるはずなのに、ごめんね」
さっきまで笑っていたが、ふいにそんなことを言う。
「でも、一緒に出かけるなら、やっぱり平助が良かったから」
他の人じゃ、だめなんだよ。
その言葉が嬉しくて顔がにやけそうになったけど、なんとか我慢する。
「気にすんなって!
何だかんだで、オレも楽しかったし」
それに、お前がオレを選んでくれたことは、すげー嬉しいんだ。
他にも一緒に行ってくれそうな奴は居るのにさ。
その中でも、オレを選んでくれたってことが嬉しくてたまらない。
「……なんか、お腹すいてきちゃった」
「だよな。今日の晩飯当番には千鶴が居たから、
たぶんすげーうまいと思うぜ」
「やった!」
そう言って喜ぶ姿は、年相応に見えた。
――は、オレより二つ下の隊士だ。
新選組で唯一の女……とされている。
(実際には千鶴が居るけど)
普段は、こんな風に年相応の顔を見せるのに。
戦になると、すごく冷たい顔をする。
そして、剣の腕は総司や一君にも引けを取らない。
向かってくる敵を、ためらうことなく斬り捨ててゆく。
『新選組の敵は、あたしの敵。刃向かうならば、斬る』
そう言って、もう今までに数え切れないほどの人間を斬ってきただろう。
隊士ならばやらなきゃならないことだけど、
オレは、には人を斬ってほしくなんかない。
……けど、それを止めることも出来ないんだ。
だっては、新選組の隊士であることに誇りを持っているから。
だからオレは誓ったんだ。
を、絶対に守りきると。
そして、自分も必ず生き残ると。
を死なせたくない。
だけど、自分が生き残らないと守ることも出来ないから。
――そう心に誓ったのが、ちょうど去年の年明けだった。
だから、年明けというのはオレにとって一つの区切りでもある。
『次の年明けを、絶対にと一緒に祝うんだ』
それが、オレの目標。
今年だって来年だって、その先だってずっと変わらない。
オレが、絶対にお前を守るから。
「…………平助?」
知らないうちに、考え込んでいたらしい。
黙り込んだオレを不思議に思ったらしいが、オレを呼ぶ。
「どうしたの?疲れちゃった?」
「何でもない……ただ、オレも腹が減ったんだよ」
笑ってごまかした。
「そっか、じゃあ早く帰ろう!」
「ああ、そうだな」
そうして、早足になるに続いてオレも足を速めた。
「ただいまー!」
「おー、お帰り、に平助」
「ただいま、左之さん」
屯所に戻ると、左之さんとばったり会った。
「左之!お店の人一押しのお酒、買ってきたよ!
夕飯の後にみんなで呑まない?」
「おっ、いいな。さすが、気が利くぜ」
「まあね」
この流れだと、たぶん後で新八っつぁんも誘うんだろうけど……
酔いつぶれるのだけは勘弁してほしいよな。
後片付けとかするの、いつもオレとだし。
(ちなみに、何だかんだ理由をつけて逃げるのが左之さん)
…………なんていうオレの予想は、見事に的中してしまった。
「新八ったら、今日も酔いつぶれちゃったね」
「本当だよな……珍しく左之さんも眠りこけてるし」
呆れながら二人を見ると、部屋で寝転がって気持ち良さそうに眠っていた。
「全く、後片付けするこっちの身にもなってくれって」
「あはは、同感」
文句を言いながらも、オレは片付けの手を止めたりはしない。
呑みっぱなしの方が、土方さんの怒りを買うからな。
それなら片付けする方がよっぽどマシだ。
「平助ー、ちょっとこっち来てみて!」
片付けがほぼ終わったとき、廊下の方でがオレを呼んだ。
何かと思いながらも、その声に従って廊下に出る。
「ほら、月が綺麗だよ」
言われた通りに見てみると、そこには見事な満月があった。
「ちょっとお月見しない?」
「ああ……そうしようぜ」
いつもなら、このままそれぞれの部屋に戻るところだけど。
今日は何故か、まだ一緒に居たいと思ったから、
のその申し出を受け入れることにした。
「綺麗だねー……」
「そうだな……」
月も綺麗だったけど、月に見惚れるも綺麗だった。
……なんて、本人には言えないけど。
「ねぇ、平助」
「ん?」
「今年も……ううん、これからもよろしくね」
「……ああ」
オレが、絶対にお前を守るから。
(だから、ずっと隣で笑っていて。)
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久しぶりの薄桜鬼夢でした!いかがだったでしょうか?
一番好きなキャラは書けない千夜ですが、
平助はなんか書きたくなりますね。マジックか。(何
あ、ちなみにお年賀企画第4弾です。
こちらはリクではないのですが……書きたくて書いてしまいました。(オイ
なんてゆうか、たぶん隊士である限り
絶対に安全なんてないと思うんですよね。
でも、その中でこういう風に想ってくれたら嬉しい…という妄想です。結局は。
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
Created by DreamEditor