風が一筋、あたしの横を通り抜けた。
向こうのほうには、夕日が見える。
もう、沈もうとしていた。
「何してんだ」
ぼーっとその夕日を見つめていたとき、
背後から声を掛けられる。
振り返らずとも、その声で誰なのかは解った。
「別に、なにも……。
ただ、あの夕日を見てただけ」
昼間はてっぺんに立ち、あたしたちを照らす。
まるで導くかのように。
それが、この時間になって沈みゆこうとしているのだ。
そんなところが、似ている。
あなたに、……似ている。
「……お疲れさま」
入学してから、今まで。
本当にお疲れさま。
あたしはそれしか言わなかったが、
なんのことかは理解してくれたようだ。
「フン……
その言葉、そのままお前に返すぜ」
よくやってくれたな、マネージャー。
そう言いながら、あたしの頭をなでる。
「ありがとう……
ほんとに、……ありがとう」
あたしと……
あたしたちと、この日々を駆け抜けてくれて。
あなたは、あたしたちの太陽だった。
「ありが、とう……」
それから、
「おめでとう……」
「……泣いてんじゃねぇよ、バーカ」
そう言ったあなたの顔は、すごく優しかった。
あたしたちの太陽が生まれた日
(とても尊い日だと思った、夏の終わり。)
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ブログ掲載SSの再録です。
跡部バースディをお祝いしたもの。
毎年夏の終わりを感じるときは、
絶対に氷帝テニス部を思い出しますね。
3年生が引退する淋しい季節でもあります。