「……本当に良かったのか?」

前をゆくあいつに声を掛ければ、
振り返って「何の話だ」というような顔をこちらに向けた。




「元の世界に戻らなくて、本当に良かったのか」

もう一度問うと、一瞬目を見開き、そして伏せた。

何か考えているのか、そのままずっと黙っている。





「あなたは……」

「……?」

「あなたは、あたしに帰ってほしかった?」

無表情のまま、そう問われた。

     
「質問に質問で返すとは、あまり感心できないな」


普段ならば、そんなことを言っていたはずだ。
だけど今は言えないでいる。

――何故か?

それは、

それは……










「何故、……泣くのを、我慢するんだ」

表情には表れていない。
だが、声が震えていたのを俺は聞き逃さなかった。





「だって……
 帰ってほしかったのかもって考えたら、……」

その先は、言葉にはしなかった。
――否、できなかった。


こいつは、いつもそうなんだ。
人前で泣くのをひどく嫌う。
そういう姿を、他人に見せたがらない。


だが、どうしても我慢できなかったのか、
俺の前で泣きだしたときがあった。

鎌倉との戦が始まって間もないときだった。









   「あたしは、運命を変えられないの……?」

どうして。
ならば、どうして此処に来たの……?


そうつぶやき、涙を流していた。
皆に見られぬよう、いつも人目があまりない場所でひとり泣いていたらしい。

だがそのときは、そこに俺が偶然居合わせていたのだ。
人前で泣くことを嫌うこいつも、よほどつらかったのだろう。
それからしばらく涙を流し続けていた。







「おはよー!」

「ああ、……おはよう」

翌日から、こいつはことさらに頑張るようになった。
皆が平和に暮らせる世を願い、戦いにも身を投じ…。

だが、俺はそれ以来気づくようになってしまった。
こいつが、泣くのを我慢しているときが、いつなのかを。


だから、わざと二人になって言うんだ。




  「泣くのを、我慢するな」

泣きたければ、泣いていい。
誰も、見てないから。


そう言うと、決まってこいつは泣きだしていた。
人前で泣くのをひどく嫌う。
…だが、俺の前では泣くようになった。

不謹慎だが……それが、なんだか嬉しかった。
頼ってもらえているようで。
たったひとり、俺だけに心を許してくれているようで。









「……帰ってほしかったわけではない」

ただ、不安になったんだ。
この運命を、俺はお前に無理やり選ばせたのではないかと。

他に、お前がもっと幸せになれる運命があったのではないかと…。




「あたしは……
 あたしはまた最初からやり直したとしても、きっとこの運命を選ぶよ」

だって、あなたと共に在れるのだから。
それが、あたしの幸せなのだから――





「そう、か」

「うん!」

だからもう、変なこと聞かないでよね。





「……ああ。すまなかった」

もう涙は流れていない。
代わりに、光り輝く笑顔があった。

















もしもまた、泣きたくなったら



(俺が必ず そばに居よう)

















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九郎が好きです、まじで。
極度のブラコン(笑)なのは置いといて、
やはり史実でもあまりいい終わりではなかったので
それがゲームにも響いているのだと思います。

このひとを救えたとき、まじ感動しました。
泣ける。