「あ、…あの……」
言いたいことは、
伝えたかったことは、たくさんあったはずなのに。
言葉が、続かない。
「私、は……」
私は……
『……勝敗は決しました。
これ以上ここに留まる理由など、もはやございません』
じきに崩れゆくのが解りきっているのに、
その人はそこから動こうとはしなかった。
『何をされているのです!
どうか、早くこちらへ……!』
このままでは、崩れゆくこの場と共にあなたも……!
そう叫んだ私のほうを、その人は振り返る。
『お前の……』
『え……?』
普段からあまり語ろうとしないその人が、何かを言おうとしている。
刻一刻を争う状況だということは重々承知していたが、
私はその言葉を聞き取るため、耳を澄ませた。
『今までこの国に仕え続けたこと、感謝する。
お前の働きは、立派だったぞ』
『……!』
どうして……
『どうして、…そんなこと……!』
何故そんなことを、今、言うのですか!
『私は…
私はあなたの国を、裏切ったのに……!』
裏切り者と呼ばれるのならまだしも、
感謝される謂れなど私には……。
『お前は、裏切り者ではない。
ただ、自らの主に忠実だったというだけのこと』
そう言いながら、その人は私の隣に立つお方に視線を向けた。
その人の弟君であり、私の仕えるお方……
この方が祖国を離れると決めたことにより、私も同じ道を辿ることとなった。
『お前は、残ってもいいんだぞ?』
そう言ってくださったが、私は首を横に振った。
仕える相手と共に、その道を行く。
それが私の、揺るがぬ決意だから。
『お前のその忠実で誠実な心に、我が国は支えられていた』
礼を言う、と言って、その人にしては珍しく微かに笑った。
『そのようなお言葉…もったいなく思います……』
ですが……
『ですがどうか……このままここに留まり続けるのは危険です。
どうか、早くこちらにおいでください!』
私はもう一度そう言ったが、それでもその人はその場から動こうとはしない。
『私は、沈みゆくこの国と共に行く』
『……!
どうして、あなたが……!』
『それが、私に与えられしものなのだ』
そんな……!
そう思ったが、私はそれ以上、何も言うことが出来なかった。
その人の決意が、本物なのだと理解してしまったから。
『……もう限界だな。
ここを出るぞ!』
我が主が言う。
一瞬の間を置いて私は頷き、最期にもう一度、
あの人のほうを振り返る。
『私は……
私はいつまでも、あなたを待っています!
だから、どうか生きてください……!
私は、……私はっ……!!』
その先は、口にはできなかった――……
「ずっと……お待ちしておりました……」
目の前に居るこの方は、幻だろうか。
一瞬そう考えもしたが、それはすぐに打ち消された。
何故ならば、頬に触れるその手が、あたたかかったから…。
「……出迎え、ご苦労だった。礼を言う」
「っ……
もったいなき…お言葉です……」
崩れゆくあの場所で別れたときと、何も変わらない。
なんだかそれが嬉しくて、涙が止まらなかった。
再び出逢えたあなたへ、
(今度こそ 想いを伝えたいのです)
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サティです!
あたしの中では、4ヒロインはアシュの配下なのですが
それであえてのサティルートとか萌えると思ったよ。(何
遙かシリーズ、置鮎担当の中で一番好きだな。このひと。