「――じゃあ、私はこれで失礼します。
先生、お大事にしてくださいね」
「うん、ありがとう…」
ぺこっと頭を下げたあと、彼女は保健室から出ていった。
「全く……
具合の悪い生徒を教師が連れてくることはあるとしても、
具合の悪い教師を生徒が連れてくるなんて初めてだぞ」
そう言って、この部屋の主は呆れたようにあたしを見た。
「す、すみません……」
返す言葉もございません、と、
あたしは居たたまれなくなってうつむく。
『先生、大丈夫ですか!?』
先ほど廊下ですれ違った際、彼女に声をかけられた。
あたしの顔色が、目に見えて悪かったのだろう(と思う)。
『保健室に行った方がいいんじゃねぇのか?』
『そうだな…俺もそう思うよ』
『じゃあ、私が連れていくね!』
さすが幼馴染とだけあって、三人は息がぴったりとゆうか…
話のまとまりが早い。
そんなこんなで、あたしは保健委員でもある彼女に
保健室まで連れていってもらうことになり…
……現在に至るのである。
「……最近眠れてないのか?」
「…………はい」
少し間を空けて、そう問われた。
若干答えにくかったものの、
嘘をつくと後が怖いのでとりあえず正直に答えてみる。
「なんだ?何か悩み事か?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが…」
あ、でも悩みっていえば悩みなのかな…。
「何かあるなら言ってみろ。
お前の相談に乗れないほど落ちぶれちゃいないぞ、俺は」
「先生……」
どうして先生と一緒に居ると、こんなにも安心するんだろう。
なんでも、話してしまいたくなるんだろう…。
考え出すと止まらなくなりそうだったが、今は、
とにかく先生に話してみよう。
「あの…悩みとゆうか、ちょっと迷っていることがあるんです」
「迷ってること?」
「はい」
少し間を空けて、あたしは言う。
「今日って…先生の誕生日じゃないですか。
それで、何をプレゼントしようかと、ずっと考えていたんです」
けど、ああでもないこうでもないと悩んでいたら、
毎日時間が過ぎるのも早く感じられて。
「仕事が終わって部屋に戻っても、そのことばっかり考えて。
いつの間にか朝になっている日もあったりで…」
でも、結局いい案も浮かばず。
そんな日を繰り返してたせいで、寝不足にもなった。
「お前……そんなことで悩んで寝不足になったのか?」
「そ、そんなことじゃないです!」
他でもないあなたの生まれた日なのに。
どうして「そんなこと」で片づけられるだろうか。
……否、そんなことは決してできないのである。
「あたしはただ、先生をお祝いしたかっただけなんです」
結果的に体調を崩したりして元も子もない状況になったけれど。
それでも、喜んでもらいたいと、思っていた。
「全く、本当に……馬鹿だな」
「なっ…」
馬鹿はないんじゃないですか、馬鹿は!
「俺は、……お前が居れば、それでいいんだ」
「先、生……」
「お前がそばに居てくれれば、それでいい」
そう言って微笑んだ先生は、あたしの頭を優しくなでてくれる。
「……とにかく、今はここで休んでいけよ」
「は、はい」
確かに、先生に話したらなんとなく心が軽くなったかも。
(解決できたとは言い切れないけれど)
そうしたら、なんだか急に眠たくなってきた。
「お前がここで休んでいけば、しばらく一緒に居られるからな」
それで十分だ、と、先生は言う。
「先生……
ありがとう、ございます」
「それは俺のセリフだよ」
ありがとな。
俺のために、そんなに悩んでくれて。
そうしてまた、先生はあたしの頭を優しくなでてくれた。
この時間が最高のプレゼント
(お前と共に在る、この時間が)
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琥太郎先生、おめでとう!
まじ好きです。あの立ち位置がたまらなく好きです。
今回のヒロインは、いちおースタスカシリーズと同じです。
先生なのに、具合が悪くなって生徒に保健室に連れて行ってもらうような
ちょっとぬけているところもあるのです。
でも普段は用意周到。石橋を叩いて渡る人。(何