「どうして人は、また戦いを繰り返すのかな」
私の言葉に、隣に居るイザークは一瞬こちらを見て、すぐに目線を前に戻した。
「戦争が始まれば、誰かが……自分が哀しむことは、みんな知っているはずなのに」
――どうして人は、また戦いの繰り返すのかな。
私はもう一度、同じ言葉を繰り返す。
そんな私に、少し間を空けてイザークは言った。
「…………誰にも、哀しんでほしくないからじゃないか」
だから人は、戦いを繰り返すのかもしれない。
「でも、なんで……」
それが誰かを哀しませることになると知りながら、どうして。
どうして戦いを繰り返すの?
「戦うことで、誰も哀しまない未来が作れると信じてる。
戦うことで、大切な誰かを護れると信じてる」
そう、だから。
だから人は、戦いを繰り返す。
「俺は……俺は、お前とお前が暮らすこの場所を護りたかった。
それには戦争を終わらせるしかないと思った」
――だから、戦ったんだ。
「…………けど、結局戦争を肥大化させただけだった」
「そんなこと……!」
ない、と言おうとしたのに。
イザークの哀しそうな表情を見たら、言葉が出なくなってしまった。
「これから俺たちが考えていかねばならんことは、たくさんある」
「うん……」
「だが、今は……
お前が隣に居るという幸せを、噛みしめたいんだ」
「イザーク……」
私も同じだよ、と言いたかったのに。
泣きそうになるのをこらえることで、精一杯だった。
「俺もお前も、他の奴らも……誰も正しかったとは思えない」
だけど、これからは。
「この、なんの変哲もない日々が続くように、努力すればいい」
いつまでも後ろを振り返っていてはいけない。
生き残った者はそのことに感謝し、
これからをどう生きていくか考えねばならない。
「……うん、私も、がんばる」
イザークの話をずっと黙って聞いていた私は、それだけを口にした。
何を、どう頑張るのか。
冷静になってみれば、子どもが口にしそうな言葉だったけれど。
「…………ああ、そうだな」
イザークが、珍しくも優しく微笑んでくれたから。
今の言葉で良かったのかな、なんて思ってしまった。
それからしばらく、私たちは雲ひとつない青空を一緒に眺めていた。
もう繰り返したりはしないと、この空に誓った
(そう、二度と)