「月ちゃん、見て!新商品のお菓子!」
「わあ、おいしそだね」
「実際おいしいよ!食べてみて」
「うん!」
お昼、食堂に向かおうとしていたとき。
見知った後ろ姿を見つけたあたしは、その背中に呼びかけた。
そして、先日発売されたばかりの新商品のお菓子を彼女に見せる。
すると彼女も、嬉しそうに食べたいと言ってくれた。
「もちろん僕にもくれますよね、先輩?」
そう言って、ひょいっとあたしの手にあったお菓子を取り上げたのは
月ちゃんと同じ弓道部の後輩・梓だ。
梓は、月ちゃんや同じ星座科の宮地を通して知り合った相手。
「って、梓!
まだあげるって言ってないよ」
あたしがそう言っても、梓は気にしない様子でそのお菓子を食べ始める。
「ちょっと!」
「うーん……
まあまあおいしいですけど、何かいまひとつですよね、これ」
「そうかなぁ、私はおいしいと思うけど」
「夜久先輩は味覚が変わってるんですね」
「え、そ、そんなことないよ!」
てか、何言ってるの、梓ってば!
「ちょっと、梓!
月ちゃんいじめたら許さないよ」
「別にいじめてませんってば、先輩☆」
「語尾に☆マークはいらないから!」
「だって部長も前に付けてましたし」
「いや、それ関係ないから!」
梓と話すと、いつもこんな感じなんだよね。
ツッコミどころ満載ってゆうか……
まあつっこまなければいい話なんだけど、ついついツッコミ入れちゃうというか。
なんなんだろ、本当に。
あたし別に関西人じゃないんだけど……。
「おい、いい加減にしろお前ら。
早く食堂に行かないと部長を待たせることになるし、昼飯も食えなくなるぞ」
「ハッ!そうだった!」
「部長が席を取っておいてくれるんだもんね、早く行かなきゃ」
「そういうわけだ、木ノ瀬。漫才はやめてさっさと行くぞ」
「はーい」
って、宮地!
漫才って何気にあたしも一緒にしてないか!?
「先輩も、もちろん僕たちと一緒にお昼食べますよね?」
「え、あ、あたし?」
「そうですよ」
確かに、食堂に行こうとしてたけど……
金久保先輩も一緒みたいだし、なんかこう、
弓道部員の集まりにあたしが入っていくってのは微妙だよね……。
あたしが答えに迷っていると、梓が少し哀しそうな顔をする。
「もしかして先輩……僕と一緒じゃ、嫌ですか?」
「は……?」
「だって、なんだか迷ってるみたいだし……」
いや、別に嫌ってわけじゃないけど……
あたしだって一応、気遣う心とかってあるんだよ梓。
弓道部員じゃないあたしがポーンと入ってってもおかしいでしょ。
「僕、先輩と一緒にお昼食べられると思って
先輩が走ってきたときすごく嬉しかったのに……」
「ちょ、梓?」
「先輩、ひどいです……」
あーあー!
なんでこんな泣きそうな顔するの!!
「解ったよ、もう!一緒に食べるよ!!」
「ありがとうございます、先輩♪」
「でも言っとくけど、金久保先輩に嫌がられたら
責任もって梓がとりなしてよね!」
「解ってますって。
でもその前に、部長は嫌がったりしないから平気ですよ」
本当なのかな、もう。
やれやれと思ったけれど、あたしもどうにも梓には甘いみたいだ。
言う通りにするしかない。
「あいつ、いつもあの調子で木ノ瀬に誘導されてるって
自分で気付いているんだろうか?」
「たぶん気付いてないと思うよ、宮地くん……」
ずっと前から
(可愛い子には甘いんですよ、もう!)