「ねえ、雨竜!
雨竜はおおきくなったらなにになるの?」
「ぼくは、おおきくなったらすごい滅却師になる!」
「そっか、すごいね!がんばって!」
「うん!」
「きみは、おおきくなったらなにになるの?」
「わたし?わたしは……かわいいおよめさん!」
「およめさんかぁ……きみならかわいいから、だいじょうぶだね」
「えへへ、ありがとう」
「雨竜ー!」
「……何だい?」
こちらに走り寄ってきた少女に、僕はそれだけを答えた。
傍から見れば愛想のない返事のように思われそうだが、
彼女に対して僕はいつもそうだ。
彼女もその辺は理解している。
だから、別段何も言わない。
「さっき乱菊さんにお化粧してもらったの!
どう?かわいい?」
そう言って僕の顔を覗き込む。
僕は驚いて少し身を退いてしまった。
正直言ってしまえば、確かに……か、可愛い、と思う。
けど、僕はやっぱり……
「僕は、いつもの君の方がいい」
――飾らなくても、輝いている君だから。
その言葉は、口にはしなかった。
だが、彼女は理解してくれたようだ。
「雨竜がそう言うなら、お化粧はいいや」
後で落としてくるね、と続ける。
「あ、いや……
せっかくだから、今日はそのままでいいんじゃないか?」
「え、でも、」
「そ、そのっ……乱菊さんにも悪いだろうし」
そうじゃないだろう、と自分で自分に言いたくなった。
こんな回りくどい言い方しか出来なくなったのは、
一体いつからなのだろうか。
「うーん……そっか、じゃあ今日はこのままでいいかな。
雨竜も気に入ってくれたみたいだしね」
「ぼ、僕は別に……」
ああ、どうして。
君は誰よりも、僕のことを解ってくれている。
僕の言葉の裏にある想いを、読み取ってくれる。
「…………君には敵わないな」
「そっかな?」
「そうだよ」
昔から、ね。
『わたしは……かわいいおよめさん!』
そう言った君は今、 漆黒の衣を纏う
(まさか君が 死神になるだなんて)