「あれは……知盛?」
用があって将臣くんの部屋に向かう途中、
向こうの方で誰かが寝転がっているのが見えた。
まず短い銀髪が見えたから、その時点で知盛か重衡に絞られる。
でも、重衡はこんなところで寝転がったりはしないだろう。
そういうわけで、あたしはあの人を知盛だと判断した。
「またこんなところで寝てるし……」
確かにこの季節、縁側はぽかぽかして気持ちいい。
けど、昼寝をするにはまだ少し肌寒い気もする。
「知盛はちょっと寝すぎなんだよね」
確か、用があるから部屋に来いと、将臣くんに言われてなかったかな。
この様子だとおそらく……
将臣くんのところには行っていない気がする。
「でも、気持ちよさそうに寝てるしなぁ……」
いつもはあんな戦闘マニアみたいなのに、寝顔は意外と可愛い。
将臣くんのためにも起こさないといけないんだけど、
なんだかその寝顔を見ると気が引けてきてしまう。
「……いやいや、やっぱ起こさないと」
そうして、一歩また一歩と、知盛に近づく。
「…………?」
……だけど、そこであたしは気付いた。
――静かすぎる。
『じゃあ、な』
「……!」
慌てて知盛の胸に耳をあてる。
すると、どくんどくんと、心臓の音が聞こえた。
「良かった……」
今あたしが居るのは、あの時空ではないのに。
望美ちゃんも、もう大丈夫だと言ってくれたのに。
どうしてあたしは。
どうして、まだこんな不安に襲われるんだろう。
知盛は、ちゃんと、生きてるのに…………。
「クッ……死人を見るような目、だな」
「……!」
ずっと閉じられていた知盛の目が、開かれた。
どうやら起きてしまったらしい。
……いや、起こさなきゃと思っていたから、
その方がいいんだろうけれど。
「死人って、そんな……」
そんなことはない、と。
あたしは言い切れないでいる。
理由は簡単だ。
この目でこの人の死を、何度も見てきたから。
「俺は……ここに、居るだろう?」
「うん……」
「お前の許可なしに……俺は、ここを離れぬ」
「……うん」
そうだね。
あなたはいつも、そう言ってくれるよね……。
「お前のもとを、離れたりは……しないぜ?」
「……!」
見透かされている気がした。
いつもならば、悔しいって思うところなのに。
「うん…………」
知盛のその言葉が、すごく嬉しかっただなんて。
ありがとう、と、言いたくなっただなんて……。
だけど、そんなことを素直に言うのも癪だから。
「あたしも……あなたを離さないよ」
精一杯笑顔を作って、そう言った。
幾度となく見てきたあなたの死
(それを見ることは もう二度と無い)