私がその人と出逢ったのは、本当に偶然だった。
「よう」
「原田さん!
どうなさったんですか、このように朝早くから」
「いや、ちょっとな」
そう言って、原田さんは少し笑う。
私が原田さんと出逢ったのは、本当に偶然だった。
ある日、城での生活に退屈していた私は、城を抜け出そうとした。
けれど世間知らずな私は、町に出てすぐ迷ってしまったのだ。
そこを通りかかったのが、原田さんだった。
私は素直に事情を話すと、原田さんは城まで送り届けてくれた。
それ以来、原田さんはときどきこの城にやって来る。
城の主である父上も、原田さんには気を許している。
娘を救ってくれた恩人と、考えているらしかった。
「原田さん、もしかして……またお酒を?」
「はは、お前は本当に鋭いよな」
バレちまったか、と原田さんは笑いながら言う。
「鋭いという以前に、あなたからお酒の匂いがしますから」
「それもそうか。けっこう飲んだからな」
未だ笑いながら、酒臭くもなるわなと続ける。
「もう……お酒だってあまり飲みすぎると身体に毒ですよ?」
「解ってるって」
本当に解っているのだろうか、と私は思ってしまう。
何故ならば、ここに来るとき原田さんは、いつもお酒を飲んでいる気がするから。
「酒ばっか飲んでて、ろくな奴じゃないと思うか?」
「……いいえ、そんなことは考えてはおりません」
ただ、本当に飲みすぎは良くないから。
「私はただ、あなたのことが心配なのです」
「そうか……悪い」
先ほどまでとは違う、少し困ったような笑顔。
私はその笑顔が、とても気になった。
「原田さん……」
どうかしたのですか、とすぐに問いかければよかったのに。
自分の思い過ごしでは、なんて考えに邪魔されて結局は言葉にならない。
だけど、原田さんはそれをくみ取ってくれたのか。
私の頭を撫でながら、答えてくれた。
「俺もまだまだ大人になりきれてねぇみたいなんだ」
「え?」
「酒の力を借りないと、好きな女に会いに行くことも出来ねぇんだよな」
耳を、疑った。
「酔った勢いで、っていうのも悪い言い方だけどよ」
つまりはそういうことなんだよな。
私は、そう言った彼に対し、何も答えられない。
「……けど、そんな甘いことも言ってられねぇ。
その好きな女が、飲みすぎは良くないって言ってくれたんだ」
俺も、それに応えなけりゃな。
「じゃあ、今日はもう行くぜ」
「は、はい……」
『俺も、それに応えなけりゃな』
「…………」
それならば、私も……――
好きだと言ってくれた彼に
(私も、応えなくては)