「ルシア殿下!おはようございます!」

「……何だよ」

「朝のご挨拶に!!」

「…………」


この妙にテンション高い女……
俺たちが滞在するティアナの家に、最近やって来るようになった。










「もう、ルシアったら。挨拶してもらったらちゃんと返さないと」


そう言いながら二階から降りてきたのは、家主のティアナだ。







「おはようございます、ティアナさん!」

「ふふ、おはよう。今日も早いのね」

「はい!
 ロッテ姉さまに頼まれて、焼きたてのパンを急いで持ってきました」

「わあ、ありがとう。
 でも、あまり急ぎすぎると危ないから気をつけてね」

「はい!!」


詳しくは知らないが、この女は路地裏で気を失っていたところを
ティアナの友人のロッテという奴に助けられたらしい。
それ以来ロッテのパン屋に住み込んでいて、家族同然に暮らしているんだとか。










「どう?もうロッテの家での暮らしは慣れた?」

「はい、みんな優しくてすぐに慣れました」

「良かったわね」

「はい!」


そのロッテからの繋がりで、ティアナを通し、
どういうわけか俺も顔見知りになってしまって。
今ではほぼ毎朝、パンを届けにやって来る際に
驚くようなテンションの高さで俺にも挨拶をしてくる。







「ルシア殿下もいかがですか?
 お父様とお母様の焼いたおいしいパンと
 ロッテ姉さまのジャムは最高ですよ!」

「あ、ああ……後でな」

「後でじゃ駄目ですよ!
 焼きたてのあたたかいうちに召し上がって頂かなきゃ」


その勢いに押され、俺は嫌とは言えずパンを食べることになった。











「今回のジャムは、ロッテ姉さまの新作なんですよ!」

「本当?」

「はい!ティアナさんにも味を見てほしいって」

「そっか、楽しみだなぁ」


そんな話をしながら、ティアナは手際よく朝食の準備をしていく。









「ルシア殿下、もう少しで朝食の準備が整うそうですよ!」


楽しみに待っててくださいね、とティアナの手伝いをしながらそいつは言った。
















「ルシアもすみに置けないじゃないか」

「ああ、そうだな」

「なっ……何言ってんだよ」


いつの間にか二階から降りてきていたらしい
マティアスとアルフレートに、そんなことを言われる。








「でも二人の言う通りじゃない?
 あの子、絶対にルシアのこと好きだもの」


続いて聞こえてきたのはエリクの声。







「そ、そうか?」

「そうだよ!ねぇ、マティアス?」

「ああ、その通りだな」

「俺もそう思う」


エリクの言葉に対し、他の二人も同意を示す。










「こういったことに疎いアルフレートまでそう言うんだ。
 間違いないだろう」


なんだか嫌な笑みを浮かべながら、マティアスは言った。


って、こいつ、他人事だと思って楽しんでやがる……!





俺は湧きあがる怒りをなんとか押さえ込む。















「ルシア殿下、準備が整いましたよ!」

「ああ、解ったよ!
 解ったから大声出すなっつーの」

「はい!」


なんて、言ってるそばから大声で返事をする。
こんなテンションの高い女なんて、初めてだ。



そんな奴の相手なんて疲れるな、なんて初めは思っていたのに。
今では、それが当たり前になってきている。











「ルシア殿下、パンが冷めないうちにどうぞ!」

「あ、ああ……いただきます」


けど、俺は心のどこかでこいつのような存在を、
ずっと欲しがっていたのかもしれない。





王家のしがらみなんて気にならないくらいの、
明るい太陽のような存在を。



































Il sole





(俺は、それをずっと待っていた)



















Il sole=太陽