「あつーい……」
部屋の窓は開けている。
だけど、風が全くないのだ。
8月ももう終わるというこの時期に、全くの無風とはなんと酷な。
あたしはそんなことを考えながら、下敷きでぱたぱたとあおいだ。
「あつーい…………」
風がなくとも、窓際に行けば少しは違うだろうか。
そう思ったあたしは、なんとなく窓際に近寄ってみる。
「やっぱりあつーい…………」
意味なかったし……。
そうして再び下敷きであおぎながら、定位置に戻る。
「結局あつー……」
い、と言う前に、書類の束で頭を叩かれてしまった。
「いたっ!」
今、少しも手加減せずに叩きやがった!
そんな恨みの念を込めつつ、叩いた本人を見やると。
「君が暑い暑いってうるさいからだよ」
暑い日が続こうとも、いつも涼しい顔をしているこの人――恭弥も、
今日のこの蒸されているような暑さには、さすがに苛立っているらしい。
どうやらその苛立ちを解消するため、あたしの頭を叩いたと見える。
「八つ当たりとは大人気ないよ」
「君がうるさいからでしょ。
たぶん、僕じゃなくても八つ当たりしてたと思うよ」
そんなことないだろ、と思いながらも、
これ以上何か言うと後が怖いので、黙っておくことにした。
「それにしても、ほんと暑いねー……
なんで冷房つけないの?」
恭弥の権力により(?)エアコンが設置されたこの応接室……
でも、このところ続く猛暑の中でも、一度も冷房をつけていない。
「節電だよ。今うるさいでしょ?」
「え?あ、まあ、そうだけど……」
不良の頂点に立つ最凶風紀委員長が、今の世に合わせて節電とな?
そんな馬鹿な!
と思わなくもなかったが、やっぱり後が怖いので黙っておくことにした。
「……でも、やっぱりちょっと暑すぎない?」
このままじゃ書類に集中できないから、全然片付かないですぜ。
あたしがそう言うと、恭弥はやれやれとため息をついて言った。
「…………仕方ないね。アイスでいい?」
「やった!さすが恭弥、話が解るね!」
作業を中断して、アイスを食べに行く許しを得られた。
この暑いときに、これほど嬉しいことはない。
「その代わり……
戻ってきたら、君にあの書類全部やってもらうから」
「え、……マジですか」
「嘘なんて言うはずないでしょ」
そりゃそうか……
「ま、いっか!
恭弥と一緒にアイス食べに行けるんだから、がんばるね!」
「…………はいはい」
呆れた口調で返してきた恭弥だけど、その表情はちょっと優しい。
あたしは恭弥のこの表情が、実は好きだったりする。
本人に言ったら「そんな顔してない」って言うから、秘密なんだけどね。
あなたに惹かれた理由
(実はこの表情だったり、そうでなかったり。)