それは、夕食後……
皆が自室に戻り、思い思いに過ごしていた時間。
私も自室に籠り、静かに過ごしていたのだけれど
(そもそも好き勝手に出歩ける立場じゃないので)
突如、部屋のふすまが開け放たれた。
「よう、千鶴ちゃん!
これからみんなで集まって、一杯やらねぇか?」
「え?これから、ですか……?」
豪快にふすまを開けて入ってきたのは、新選組二番組組長の永倉さん。
これからみんなでお酒を飲もうとしているみたいだけれど、
確か昼間に「明日は朝から巡察なんだよな、俺」って言っていたような……。
大丈夫なのかな、と思いながら迷っていると、
待ちくたびれたのか、永倉さんは言う。
「迷ってるんだったら参加した方がいいぜ、千鶴ちゃん!」
「え、で、でも……」
「いいからいいから!」
永倉さんはそれでいいのだろうか……
そうも思ったけれど、断るに断れずただただ永倉さんの後に続いて歩き出した。
「……あ、千鶴も新八に無理やり連れてこられたの?」
「は、はい……
ええと、あなたも……ですか?」
「うん。ご名答」
目の前に居る人はため息をつきながらそう言った。
……彼女は新選組唯一の女性隊士。
入隊するときはけっこう大変だったという話だけれど、
(とくに土方さんが厳しかったみたい)
今では指揮も任せられるし戦っても強いということで、とても信頼されている。
そんな彼女も、永倉さんに引っ張られてここ・広間までやって来たということだ。
「とにかく……飲んでもいいけど、飲みすぎないようにね」
「おうよ!」
すでに平助君や原田さんと飲み始めている永倉さんは、彼女の言葉に勢いよく返事をした。
……――数時間後。
「……って、さっき新八さんに釘を指していた張本人があの調子なんだけど」
呆れながらもそう言った沖田さんの視線の先には、泥酔状態……と言っても過言ではないような彼女。
先ほど永倉さんに注意したときのような、普段のしっかりした彼女の姿は全くない。
「はじめくん、おかわりちょーだい〜〜」
「ま、まだ飲むのか?
いくらなんでも、飲み過ぎでは……」
「だーいじょおーぶよ〜〜」
先ほどから一緒にお酒を飲んでいた斎藤さんは、
(と言っても、斎藤さん本人はそれほど飲んでいない)
彼女の「おかわり」という言葉に困惑している様子。
「はーじーめーくーん〜〜〜」
「いや、やはりお前は飲み過ぎだ。これ以上、酒は渡せん」
「ええー!はじめくんのいじわるぅーー!」
そう言いながら、彼女は斎藤さんの腕にしがみつく。
「お、おい!しがみつくな!」
「だってぇー、はじめくんがいじわるなんだもん……」
「うっ……」
「ちょっとやばいんじゃないの?
このままじゃ一君、彼女の上目遣いに惑わされてお酒あげちゃうかもしれないよ」
「えっ!? それは駄目ですよ!」
これ以上飲んだら、本当に体に良くない。
それが解っているから、斎藤さんも必死に止めているんだろうけど……
「だ、駄目なものは駄目だ!!」
「なんでよー!はじめくんのいじわる!」
「意地悪でもなんでも構わん。
今日はこれ以上、酒は禁止だ」
「はじめくんのばかー!」
「馬鹿で結構」
「でも、一君も顔真っ赤だよね」
「え?斎藤さんは、そんなにお酒は飲んでいないはずですが……」
「…………千鶴ちゃんも本当、鈍いよね」
「どういう意味ですか!」
沖田さんは、ただ意味深に笑っただけだった。
だから結局は彼女に弱いんだってこと
(一君の弱点って言ってもいいかもね。)