「みーずーしーまぁ〜〜!!」
……来た。
僕のことを「水嶋」と呼び捨てにするのは陽日先生もなんだけど、
あいにく今のは男の声ではない。
となれば、もう選択肢には彼女しかいない。
「水嶋!」
ガラッと勢いよく保健室のドアを開けた彼女は、
怒りながら僕を探す陽日先生並みに怒っていた。
けど、もちろん陽日先生なんかより全然怖くないし、
(そもそも陽日先生だって全然怖くないけれど)
むしろ彼女は怒っていてもかわいいと思う。
それを本人に言うと全力で否定されるから、
あんまり言わないようにはしてるんだけどね。
「先生?
保健室に入る前にはノック、でしょ」
「あ、そうだった……
……って、違うよ!」
危うく話をごまかされるところだった!
そんなことを言いつつも、
「でもやっぱりノック無しはまずかったかな……」なんて落ち込んでる。
……ほら、先生はそんなところがかわいいんだよ。
「と、とにかく、ノックのことは後で反省するとして……
陽日先生が実習について話し合いするから、来いって言ってるよ」
「実習について……ですか?」
正直めんどくさい……。
けど、色々と考えた結果、ここは素直に従っておくべきと判断し、
僕は彼女と一緒に陽日先生の居る職員室に向かうことにした。
「ところで先生?」
「うん、何?」
移動中に僕はちょっと思いついて、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「どうして先生は、僕のこと『水嶋』って呼ぶんですか?」
「え?ええと……
陽日先生の呼び方が、うつったのかなぁ」
自分では意識してなかったから、明確には解らないらしい。
案外単純だったな、と拍子抜けしたけれど、
まあ、そこが彼女らしいと言えばらしいかな。
「もしかして、『水嶋』って呼ばれるの、嫌なの?」
そう言って少し心配そうな顔をする。
僕は望んでいるのは彼女のそんな顔ではないから、
これ以上心配しないように「嫌ではないですよ」と答えた。
「けど、せっかくだったら名前で呼んでほしいじゃないですか」
苗字じゃなくて。
……けど、こんなことを言ったって彼女は真っ赤になって照れるだけだろう。
そう、思っていたんだけれど。
「じゃあ、郁」
「……え?」
「郁、でしょ?」
なんでもないという風に、さらっと僕の名前を呼んだ。
「普段は呼べないから、ふたりのときだけかな」
「そ、そう……ですね」
なんでだよ。
普段すごく照れ屋なのに、なんでこういうときだけさらっとやってのけるんだ。
「でも、今はふたりだから平気だね。
行こう、郁!」
そう言って満面の笑みを浮かべ、僕を呼ぶ彼女。
赤くなる顔を隠すように、僕はそっぽを向いて返事をした。
まさかこれほどの破壊力があるとは
(本当に予想外だ。)