「あ、黒子くん、おはよう!」

「……おはよう、ございます」


僕が教室に入ると、その人は真っ直ぐに僕を見て挨拶してくれる。

(自分で言うのもどうかと思うけれど、)
今までこんな風に真っ直ぐ見てくれた人など、片手で数えるほどしか居なかった。


……それが、彼女はどうだ。
入学式の日から僕をしっかり見つけ、真っ直ぐ見てくれたのだ。







「なんか歯切れ悪いね。
 もしかして具合悪いの?」


大丈夫? と、心配そうに僕を顔をのぞき込んでくる。
その仕草にドキッとして、思わず身を引いてしまった。













「あ、ごめんね……
 びっくりさせちゃったかな」


苦笑しながら、彼女は言った。
もしかして、傷つけてしまったのだろうか……。

だけど、そんな心配も必要なかったらしい。
次の瞬間には、彼女はいつもの笑みを浮かべていた。







「でも、良かった。
 そんくらい俊敏に動ければ、具合も悪くないよね」


要らぬ心配だったね、と、
(おそらく、わざと)おどけて言った。










「あ、いえ……
 心配してくれて、嬉しいです」


ありがとうございます、と続けると、彼女はすごく驚いた顔をした。







「あの……
 どうかしましたか?」


あなたのほうこそ、具合が悪いんじゃないですか。

僕がそう言うと、彼女は我に返り慌てて首を振る。





「ううん、違う違う!あたしは至って元気!」


じゃあ、何かあったんですか。







「あ、えーと、その……」


先ほどの僕のように、歯切れが悪くなっている。
何か、言いにくいことなのだろうか。










「あの、ね……
 黒子くんが笑ったの初めて見たから、ちょっとびっくりしちゃって……」


いつも話しかけたら少しは反応があるけれど、笑うまではいかないから。
だからびっくりして、ぼけっとしちゃった。

彼女はまた、苦笑しながら言った。










「けど、黒子くんの笑顔、あたし好きだなぁ」


優しい感じがして、すごくほっとする。







「そう、ですか……」

「うん!」


そう言って笑う彼女はとても輝いていて、しばらく目をそらせなかった。





























笑顔が優しいのは、あなたのほうです。





(僕があなたに惹かれたのは、その笑顔が理由だから。)