「順ちゃん、順ちゃん!」
あー……
また来たか。
「ねえ、順ちゃん! 聞いてる!?」
「うるせーよ。
それから順ちゃんて呼ぶなっつったろ」
最近やたらオレの周りに現れるこいつは、
隣のクラスに在籍する同級生。
……なんでか、妙に懐かれてしまったらしい。
「順ちゃん、聞いて!
今日ね、リコちゃんが新発売のお菓子くれたのー!」
さっき食べてみたけど、すごくおいしかったよー。
満面の笑みでそう言った。
「本当は順ちゃんにもあげようと思ったんだけど……
全部食べちゃった! ごめんね!」
「自慢しに来ただけかよ!」
「そうだとも!」
「オイ!!」
こいつとしゃべってると、オレはつっこんでばかり……
疲れるけど、あんま邪険にも出来ないでいる。
「ほんと、ごめんね!
でも今度自分で買ってくるつもりだからさ」
そしたら、一緒に食べようね!
「ったく……
今度は全部食べんじゃねーぞ」
「はーい!」
邪険に出来ないでいる理由は、自分でもよく解ってない。
まあ、たぶん……こいつが無邪気すぎるから、だと思う。
「じゃあ、そろそろ授業始まるから行くね。
またねー、順ちゃん!」
「おー……
……って、だから順ちゃんって呼ぶなっつーの!」
何回言っても解んないやつだな、オイ!
「じゃあ、順平くん」
「あ?」
「順平くんならいい?」
「あー……まあ、それなら……」
順ちゃんよりかは、よっぽどマシだしな。
「それじゃまたね、順平くん!」
「お、おう」
な、なんかまともに名前なんて呼ばれたことねーから、
ちょっと照れんな……
「ひゅ・う・が・く・ん♪」
「うわっ!?」
あいつが自分の教室に入っていくのを見届けた直後、
ものすごくドスの効いた声で呼ばれた。
慌てて振り返ると、我らがカントクの姿がある。
……つまりは、今の声はカントクのものだった、ということだ。
「ど、どーしたんだよ、カントク」
「ちょっと部活のことで話があったんだけど……
それより一つ言っておきたいことがあるわ」
「あ?」
一体なんだと思いながら、カントクの言葉を待つ。
「日向くん……
あの子を悲しませたらどうなるか、解ってるわよね?」
「……!?」
そのとき、一瞬カントクが死神に見えました。
……いや、マジで。
オレの命は、あいつを悲しませた時点で無いと思ったほうがいいらしい……
まあ、たぶん……それはねーだろうけどな
(オレだって、あいつが悲しむ顔なんて見たくないから。)