「りーーん!」
たぶん、燐はこの先に居るはず。
そう思いながら、その名を呼んでみた。
『兄さんだったら、さっき一人で出かけましたよ』
お腹すいたから、燐に何か作ってもらおう。
そうつぶやいたら、雪男がそんなことを言ってきた。
『どこに行ったのかは、解りませんが……』
――あまり聞かれたくないようでしたから。
少し心配そうな顔をして言う雪男に、
「行き先は知ってるから、大丈夫」と言い残しあたしは寮を出た。
「りーーん!!」
燐はきっと、この先の祠に居るはずだ。
確証は無いが、確信はあった。
「はあ、はあ……」
いつの間にか走っていたようで、運動が苦手なあたしは既にかなり息が切れていた。
そんな自分を落ち着かせるべく深呼吸をしてから、前にある背中に声を掛ける。
「……燐」
呼んでも、こちらを振り返らない。
けれど、聞こえてはいる……んだと思う。
「燐、……」
あたしはただ、その名を呼ぶだけ。
何か言葉をかけてあげたいのに、何も言えないでいる。
……思いつかないわけではない。
ただ、どの言葉も何か違う気がして。
単なる慰めの言葉にしかならない気がして、開きかけた口をまた閉じるのだった。
「……なあ、」
「ん?」
燐は前を向いたまま、あたしに声を掛ける。
あたしは、黙ってその言葉の続きを待った。
「あいつ……
俺のこと、覚えててくれるかな」
「うん、……」
覚えててくれるよ、きっと。
(そう言うと、振り返って嬉しそうに笑ってくれた。)