「そーいえばお前……
俺になんか用あったんじゃねぇのか?」
いつの間にか普段の感じに戻っていた燐が、ふとそんなことを言った。
その言葉で、あたしは本来の目的を思い出す。
「そうだ、燐にお願いしに来たんだった……!」
お腹がすいたから燐に何か作ってもらおうと思ったこと、
だけど寮には居なくて雪男に聞いたら「出掛けた」と言われたこと、
なんとなく燐の居場所が解って、ここまでやって来たこと……
あたしはそれを、簡単に説明した。
「そっか……」
お前には、解っちまうんだな。
俺の考えが。
そうつぶやいた燐の横顔は、ひどく優しかった。
――あたしは、燐がこんな笑い方をするところを、
つい最近まで見たことがなかった。
あの子と出会ってから、だと思う……
ときどきこんな風に、笑うようになったのは。
「燐……」
それが良いか悪いかと聞かれれば、あたしは良いことだと答えるだろう。
確かに深い哀しみを味わっただろうけれど……
同時にそれは、燐が人として成長したってことだろうから。
……なんて、あたしだって大した時間を生きてはいないけれど、
そんなことを考えたのだった。
「……しょうがねーな、腹ペコな誰かさんのためになんか作るかー」
またいつの間にか、燐はいつもの感じに戻っていた。
それに安心して、歩き出したその背中をあたしも追いかける。
「あたし、今日はオムライスがいいなー」
「オムライスかー……
確か卵が切れてたな。買ってくか!」
「いえっさー!」
わざとオムライスを選んだこと、燐は解ってくれたみたいだ。
どこか含みのあるような笑みを返してくれた。
ほら、さっさと帰ろうぜ。
(そう言って差し出された手を、あたしは迷わず取った。)