寮に戻る前に卵を買うことにしたあたしたちは、
手をつないだまま近所のスーパーに向かっていた。
「……ん?」
そんなとき燐が急に立ち止まって目線を横にずらしたので、
何かと思ってあたしもそれに倣う。
すると、その先には台湾支部からやって来ていた祓魔師――リュウさんの姿があった。
「どうしたんですか、リュウさん」
「お前、台湾に帰ったんじゃ……」
そう、燐の言う通りだ。
昨日リュウさんは台湾支部に戻ると言って、学園を出たはず……。
それなのにどうして、という思いで答えを待っていると、
リュウさんが唐突にあたしの手を取った。
「えっ!?」
「一つやり残したことがあってな」
「や、やり残したこと……?」
いや待て、その前にこの手は何ですか……!?
「お前のことだ」
「あたし……?」
意味が解らないんですけど……。
そんなあたしの心境を察したのか、そうでないのか、
笑みを深くしたリュウさんが続きを話し出す。
「まだ候補生だが、なかなか見込みがあるからな。
どうだ?その気があるなら、台湾支部で面倒を見るが」
「え、……ええ?」
話がぶっ飛びすぎていて、正直なんて答えたらいいのか解らない。
とゆうか「見込みがある」って言うけれど、
あたしは単に刀を振り回していただけだし……。
「……いや、訂正する。
お前が気に入ったから、連れて帰りたい」
「え、……ええっ!?」
いや、ほんとすみません……
「話がぶっ飛んでる」どころの問題じゃないってこれ!
でも、どうしよう……
このまま黙っていると、状況がエスカレートする気がする……!
「……なんてな」
「え……?」
何?もしかして、からかわれた!?
「〜〜〜〜〜もういいから、お前さっさと帰れよ!!」
あたしとリュウさんを引きはがしながら、燐が言った。
そんな燐に意味深な笑みで返したあと、リュウさんは今度こそ帰っていった。
「……びっくりした、一瞬本気かと思っちゃったよ」
「どう考えても本気だろ、あれは」
「え?」
「…………なんでもねぇ」
よく聞こえなかったけれど、燐はどこか不満そうだった。
「ねえ、とりあえず卵買いに行かない?」
早く燐の作ったオムライス食べたいな。
そう言うと、燐はすぐに笑顔になる。
「よーし、期待してろよ!
腕によりをかけて作ってやるからな!!」
うん、楽しみにしてるよ。
(あの子と一緒に食べた、思い出のオムライスを。)