「緑間くん、今日はありがとう」
「いや…礼など要らないのだよ」
オレも楽しめた、と、微かに笑って答えてくれた。
その言葉が嬉しくて、あたしも顔がにやけてしまう。
『部活、休みなの?』
『ああ』
次の日曜日に出掛けないかと、
彼から電話があったのは数日前のことだ。
でも部活は? と聞くと、
休みだから問題ないのだよ、といつもの調子で返された。
『行きたいところはあるか』
『え? えーと……』
あるっちゃあるけれど、緑間くんは騒がしいところ好きじゃなさそうだし……
『遠慮するな。
お前の行きたいところに、オレも行きたいのだよ』
『う、うん、じゃあ……』
――そんなやり取りの末にやって来たのが、有名な某テーマパーク。
現在30周年記念ということで、色々催し物があったりして盛り上がっている。
それに興味があって、思い切って行きたいと口にした。
緑間くんが嫌そうにしていたらすぐ帰ろうと思っていたんだけど、
思ったより大丈夫そうだったので、結局夕方まで一緒に遊んでいたのだ。
「アトラクションも面白かったけど、
グッズ見て回ってるのが、やっぱり楽しかったなぁ」
「お前は、ああいう場所で買い物するのが好きそうだな」
「うん!」
パレードやってる間に買い物する派!とか言い張ってるだけはあると、
自分でも思うんだよね。
「みんなにお土産も買ったし、自分のも色々買ったし……
すごく楽しかった!」
良かったな、と、緑間くんはまた微かに笑ってくれた。
「……あ、電車来たね」
「ああ」
改札を抜けてホームまでやって来ると、ちょうど電車が来たところだった。
想像していたより空いていたので、席にも座れそうだ。
「はあ……」
電車に乗り込んで座ると、なんだかどっと疲れが押し寄せてきた感じ。
思った以上に、はしゃいでいたのかなぁと一日を振り返る。
「疲れているなら、着くまで寝ているのだよ」
「え、でも……」
あたしの様子に気づいてくれたらしい緑間くんが、そんなことを言う。
でも、いいのかな……。
「寝過ごさないように、起こしてやる」
「うーん……」
それって、緑間くんはずっと起きてるってことだよね?
余計に申し訳ない気がするんだけど……。
「寝ていろ」
「…うん……」
でも、なんだか無性に眠たくなってきた。
ここはお言葉に甘えて、少し眠ろう……
そう思いながら、あたしは目を閉じた。
「ん……」
隣に座る彼女は、すっかり夢の中に居るようだ。
無理もない、あれだけはしゃいでいたのだから。
「自分は年上なのだから」と、普段は何かストッパーのようなものを
自分自身にかけているような気がしていた。
……だが今日は、それもなく自然と楽しんでいるように感じられた。
正直なところ人が多い場所は苦手なのだが、そんな彼女を見れてオレも嬉しかった。
「……出掛けて正解だったのだよ」
再び彼女のほうを見る。
当たり前のように隣に居てくれるその存在に、感謝した。
揺れる電車の中で
(俺にもたれて眠るお前を、愛しく想った。)