「銀さーん」
「なんだァ〜?」
ソファで寝転がりながら、ジャンプを読んでいた銀さん。
呼びかけると、気のない返事をした。
……でもいつものことだから、別にあたしも気にならないけれど。
「今、ちょっと時間ある?」
「(他の奴ならともかく)お前のための時間なら有り余ってますよォ〜〜」
「…………」
「……え、何?どーした?
俺なんか悪いこと言った??」
あたしが何も返さなかったからか、起き上がった銀さんが
ちょっと焦った様子で聞いてくる。
「……ううん、そうじゃないよ」
――ただ、銀さんの何気ない一言が、すごく嬉しかったから。
そう言ったら、銀さんは一瞬目を丸くし、
すぐにくるっと体を反転させてしまった。
「銀さん?」
「あーいや、うん……なんでもねー」
「……??」
「ったく、なんだよこの子は…なんでこんなにかわいーんだよ……」
「……?」
銀さんが何かぶつぶつ言っていたみたいだけど、よく聞こえなかった。
「あー……ところでお前、」
「うん」
「なんか用あったんじゃなかったかァ?」
あ、そうだった…うっかり話がそれちゃってた。
「うん、あのね…用事、ってほどでもないんだけど」
一緒に、お散歩しない?
「散歩ォ?」
「うん。
今日は特に仕事とかも無いから…銀さんとゆっくりしたかったんだけど」
駄目、かなぁ……。
「……ダメなワケねーだろ」
「ほんと…?」
「あァ、ホントホント」
そう言いながら、頭をぽんぽんと撫でてくれる。
……実は、あたしはこの仕草が好きだったり、する。
「ま、そーゆーワケだ。
俺の気が変わらないうちに、さっさと出かける準備をしてきなサイ」
「うん!」
ちょっと待っててね、と伝え、
あたしはいったん部屋に戻った。
「いい天気だね〜」
「そーだなァ」
お散歩日和だよね!
「で、お前…結局行きたいとこ無ェの?」
「うん、別にそれは……
強いて言えば、お昼寝できそうなところ、とか」
昼間からゴロゴロするのも、って感じだけど……
でも、なんかそんな気分なんだ。
銀さんとふたりで、ゆっくり過ごしたいから……。
「オイ、こっちだ」
「え?」
銀さんがふいにあたしの手を引いて、道をそれた。
わけが解らずそのままついていくと、川沿いの土手にたどり着く。
「ここなら、昼寝できるだろ」
「う、うん……」
確かに、芝生が生えててお昼寝に良さそうだね。
そんなことを考えながら、先に寝転がった銀さんに続き
あたしも寝転がってみる。
「わあ……」
思ったより芝生がふかふかで、心地いい風が吹いている。
天気もよくてあったかいし、なんだかすぐ寝ちゃいそう……
「……なァ」
「うん?」
目を閉じて、ほんとにもうすぐ寝ちゃいそう……
と思ったとき、銀さんに声を掛けられた。
「マジでどっか行きてェとこ無いわけ?
銀さん今日は時間たっぷりあるし、お前の行きてェとこ連れてってやれっけど」
「うーん……」
ほんとにほんとに、行きたいところは無いかな…。
「この世界にね…
新八くんが居て、神楽ちゃんが居て、みんなが居て……
銀さんが隣に居てくれれば、あたしはそれでいいよ」
何か特別なことをしなくても、特別な場所に行かなくても……
あなたが居てくれれば、それでいい。
「他の全てをこの手に出来る状況だとしても……
あなたが居なければ、意味がないの」
あたしは、今回のことでそれをはっきり自覚したよ。
そこまで言って閉じていた目を開いたら、
いつの間にか起き上がっていた銀さんが、切なそうな顔であたしを見ていた。
「銀さん……
ずっと、あたしの隣に居てね」
あたしも起き上がって、銀さんの目を見てそう言った。
「…………それ、そっくりそのまま返すわ」
たまに見せる苦笑い顔で、そう答えてくれた。
この世界にあなたが居るということ
(それが、あたしの全てなのだから。)