「あれは……」


部活からの帰り、家までの道を歩いている途中で向こうからやって来る彼女の姿を見つけた。
方向から考えると、どうやら駅から出てきたところらしい。










「お出かけしてたんですか?」

「え…?」


声を掛けると、彼女が振り返った。
一瞬驚いたような顔をしていたが、ボクだと解り少し笑う。







「黒子くん」


うん、そうなの。と、先ほどの問いに対し答えてくれた。







「黒子くんは、部活帰り?」

「はい、その通りです」


ボクも彼女の問いに答えた。















「あなたも、もう帰るところですよね?」

「うん」

「じゃあ、良ければ送らせてください」

「え? でも、……」


――ここからだと、黒子くんが遠回りになっちゃうよ。

彼女は遠回しに断ってきたが、ボクはそれを聞き入れなかった。


……家までそんなに距離があるわけではないけれど、もうこんなに暗いのに。
そんな中を、彼女ひとりで帰らせるわけにはいかないから。








「ボクの我が侭に付き合うと思って、お願いします」


もう一度「送らせてください」と言うと、
彼女が観念したように「じゃあ、お言葉に甘えます…」と答えた。

























「それにしても、誠凛のみんなも毎日がんばってるよね」


歩きながら彼女がそう言った。







「あたしも、出来れば毎日手伝いに行ければいいんだけど……」

「いえ、それは…
 ボクたちも嬉しいですが、あなたにはあなたの予定があるでしょうから」


気にしないでください、と伝える。
申し訳なさそうにする彼女に、少し笑顔が戻った。










「黒子くんは、いつも優しいよね」


ふいに彼女がそんなことを言った。







「そう…でしょうか」


でも自分ではよく解らないので、ボクは曖昧な答えしかできない。















「うん……
 たぶん周りから見れば、なんてことない日常会話の中でのやり取りだと思うけど、」


――あたしにとっては黒子くんの言葉はいつも優しくて、話しててすごく安心できるんだ。

そう言って笑う彼女の表情がとても綺麗で、ボクは見入ってしまった。







「……黒子くん?」


そんなボクの様子に気づいたのか、彼女が不思議そうに声を掛ける。










「あ、いえ……なんでも、ありません」

「そう? それなら、いいんだけど…」


じゃあ帰ろう、と言う彼女の言葉に、
いつの間にか止まってしまっていた足を再び動かした。

























「送ってくれてありがとう、黒子くん。
 遠回りになっちゃって、ほんとごめんね」

「いえ……気にしないでください」


遠回りといっても、そんなに大したことないですから。







「じゃあ、またね」

「あ、あの、」

「ん?」


家に入ろうとする彼女を、慌てて引き留める。
こちらを振り返った彼女は、また不思議そうな顔をしていた。















「ボクは……
 ボクは、誰にでも優しいわけじゃないです」

「え、……」

「あなただからです。
 相手が、あなただから」


彼女の瞳を真っ直ぐ見て言う。
対して彼女は、驚いて何も言えないふうだった。







「……引き留めてすみません。それだけ、なんです」


それでは、おやすみなさい。

そう言い残して、ボクは立ち去った。

























「……あら? 帰ってたの?」

「あ、リコちゃん…
 うん、今 帰ってきたんだ」

「そう、おかえりなさい…って、どうしたの?」

「え?」

「なんか顔が赤いわよ?」

「え!?」


彼女が帰宅後にカントクとそんな会話をしていたこと、ボクが知るのは少し後の話です。


























































ボクが成長したときにもう一度





(もう一度ちゃんと、伝えさせてください。)