「それで、昨日は……」
「……」
「……先生?」
「……え! あ、ごめん…!」
話してる途中から返事が聞こえなくなり、気になって覗いてみると…
案の定、先生は眠りに落ちそうなところだった。
「ごめんね、誉くん! あたし…」
眠りかけていたことには、すぐ気が付いたらしい。
慌てて頭を下げてきた。
「……だいぶお疲れみたいですね、先生」
「い、いえ、そんなことは…」
なんて言っているけれど、疲れているのは本当だろう。
先生はとても解りやすいから。
「先生、無理しないで休んでください」
「ええっ? で、でも…」
せっかく家にお邪魔してるのに、と、先生は僕の言葉を拒否する。
でも…
「休憩しましょう?」
「う…は、はい……」
じっと目を見つめて言うと、先生にはけっこう効くみたいで…
僕は困ったときに、この方法を使うようにしている。
(何度引っかかっても気づかないのは、先生の可愛いところ。)
「ソファで少し横になりますか?」
「う〜ん……」
休憩してはくれるみたいだけれど、僕の提案に対しての反応はイマイチ。
何が引っかかっているのか解らずに、しばらく先生の言葉を待つと……
「誉くんの家、縁側ってある?」
「縁側…ですか?」
「うん」
ええ、一応ありますけど……。
訳が解らないままそう答えると、先生はそこに案内してほしいと言った。
先生も夜久さんと同じくけっこうな頑固者なので、あえて反論せずに縁側に連れていく。
すると、先に座るようにとお願いしてきた。
「ええと……これでいいですか?」
「うん! ありがとう」
そう言って嬉しそうに笑う。
ここまでの行動の真意は未だ解らないけれど、
この笑顔が見られるならば…と思ってしまった僕が居た。
「じゃあ……失礼します!」
そうして先生は……僕の膝を枕にして、ごろんと寝転がった。
「先生……」
「少し貸してくれる?」
「それは構いませんけど、」
ここで寝転がったら、身体が痛くなりませんか?
やんわりと言ってみたものの、先生は楽しそうに笑うだけだった。
「なんか、こうやって縁側で一緒にお昼寝してると……
一緒に住んでる夫婦みたいだね……」
「え、……」
予想外の言葉に、僕は何も返すことが出来なかった。
「あ、あの……先生……」
「…………」
なんとか言葉を出したものの、先生からの返答は無い。
その代わりに、規則正しい寝息が聞こえた。
「……寝ちゃったんですね」
先生、さっきの言葉は……
「僕と、結婚してもいいってこと……ですよね……?」
答えが来るはずのない問いを、すやすやと眠るその人へ投げかける。
「…………ふふ」
やはり答えは無かったが……
夢の中に居る先生はとても幸せそうに笑った、気がした。
もしかして今のは……遠回しのプロポーズ?
(そんなわけないか、と、自分で笑ってしまった)