「ただいま……
 …………ん? 居ないのか?」

仕事が終わり、家に帰ってみると……
いつも俺が帰る頃には開けていてくれる家の鍵が閉まっていた。

今日は忘れてしまったのかと思いながら、自分で鍵を開け家に入る。
だが、リビングの明かりが付いているだけで人の気配は無かった。





「……少し出ているのかもしれないな」

それならば、いつもメールを入れてくれるはずだが……。

不自然な点が目につき気になったものの……
たまにはそういうこともあるかと考え、リビングまでやって来ると。





「…………手紙か?」

テーブルの上に、手紙がぽつんと置いてあった。



   “国光へ”










「あいつの字だな……」

もしかすると、メールの代わりに手紙なのかもしれない。
ひとまず中身を確認しようと、俺はその手紙を手に取った。





   “国光へ


     おかえりなさい! 今日もお仕事ご苦労さまでした。
    メールでも良かったんだけど、あたしは手紙も好きだし
    たまにはいいかな〜と思ってさ(笑)

     それで、ここからが本題!
    帰ってきたばかりで悪いんだけど、下に書いてある場所に
    今から向かってくれないかな?地図も同封してるので
    そっちも参考にしてください。解らなかったら、電話してね。

     あたしは、一足先にこちらに居ます。
    待ってるから、ちゃんと来てね!”













「…………肝心な事が、何も書かれていないぞ」

何故この場所に向かうのか、そこで何をしようというのか。
要領を得ない内容の手紙だったが、嫌な感じはしなかった。





「俺もずいぶんとあいつに毒されているな」

だが、それも悪くないと思ってしまう。
我ながら変わったな、と、改めて感じた。










「……ひとまず、この場所へ向かうか」

何があるのかは全く解らないが、あいつが待っているんだ。
あまり待たせてしまっては、かわいそうだろう。

そう考え、俺は帰ってきたばかりの家を後にした。


























「地図によると、確かここか……」

指示に従ってやって来たのは、結婚式やパーティが行われる貸会場だった。

……手紙に書いてあった場所ともきちんと一致しているようだな、と思ったそのとき。










「……あっ、国光〜!」

建物のほうから、呼び出した張本人が駆け寄ってきた。





「ごめんね、仕事終わったばっかなのに……疲れたでしょ」

「それは構わないが、ここで今から何をするつもりだ?」

「それは始まってからのお楽しみだよ!
 さ! さっそく中に入ろ!」

「あ、おい……」

俺の腕を引っ張り、どんどん進んでいく。
だが、もちろんその手を振りほどくことも出来ず、俺はされるがままになっていた。















「よし、着いた!」

「ここか?」

「うん!」

問いかけると、変わらずの元気な声が返ってくる。





「国光が、扉を開けてくれる?」

「構わないが、いいのか?」

「うん……あなたが、開けるべきだから」

俺の好きな「凛とした」表情で言う。
この表情で言うなら間違いないだろう、と思って、俺は言われた通り目の前の扉を開けた。



















「「「「「「「「「「誕生日、おめでとう!!!!!」」」」」」」」」」



「……!」

扉を開けた先には、懐かしい顔ぶれが勢ぞろいしていた。
青学で共に戦った仲間はもちろん……それ以外にも、大会で対戦し共に切磋琢磨した面々の姿もある。

予想もしていなかった事に驚き、黙ったまま振り返ると……










「……なんか、急にごめんね。
 国光は、もっと静かなパーティのほうが良かったかもしれないけど」

声を掛けてみたら、どんどん人数が増えてっちゃって……
せっかくなら、大々的にパーティをやろうってことになって。





「みんな、国光の誕生日をお祝いするために集まってくれたんだよ」

集まってくれる人がこんなにたくさん居るのは、あなただからこそだね。





「お誕生日おめでとう、国光。
 そんな素敵なあなたの奥さんになれて、あたしは幸せです。

 あと、何度も言ってるけど……生まれてきてくれて、ありがとう」

その言葉と想いが嬉しくて何も言えなかった俺は、代わりに目の前の大切な存在をただただ抱きしめた。











































そんなお前だから きっとみんな集まったんだろう



(お前の言葉を そのままそっくり返してやりたい)