『……ああ、俺だ。お前、今どこに居るんだ?』
もう、すっかり暗くなった頃……
愛しの旦那様(と言ったら岳人に爆笑された)(でも嘘ではない)から
電話が掛かってきて、出たら開口一番にそう言われた。
家に居なかったので(口にはしないだろうけど)
どうやら心配してくれたらしい。
「今ね、部室に居るんだ」
『部室だぁ?』
あのときと同じだ。
何故そんな場所に、と言いたげだった。
『ってことはお前……学校に居るのか』
「うん、そう。
ここで待ってるから、迎えに来てほしいんだけど」
ダメかな、と聞くと、「ダメなワケねぇだろ」と即答された。
言葉はキツめだが、やっぱりいつも頼みを聞いてくれる優しい景吾だ。
「じゃあ……待ってるね」
『ああ』
変わらないその優しさが、とてもあたたかい。
「もう少しで、景吾ここに来るよ」
「じゃあ、さっきの打ち合わせ通りにやればいいんだな」
「うん」
そこには、あのときと同じようにテニス部の面々が集まっていて。
そしてあのときと同じように、
先ほど話し合った流れをみんなでもう一度確認する。
「失敗しないでくださいよ、向日さん」
「な、何だよ、なんで俺限定なんだよ、日吉!」
「二人とも落ち着けっちゅうねん」
騒ぎ出す二人を、侑士が宥める。
大人になってもこの流れは変わらないんだな、と、
思わず笑ってしまった。
「けど、部室すごく懐かしいですね」
「うん、ホントだよね」
部室内を見回しながら、長太郎が言う。
あたしも同じことを考えていたから、
一緒になってきょろきょろしてしまった。
「…………来ます」
あとは主役が来るだけということで、雑談をしていたとき……
これもあのときと同じ、樺地が一言言った。
景吾が、来たのだ。
「おい、お前なんだってこんなところに……」
景吾が言い終わる前に、クラッカーのはじける音がいくつも重なった。
「なんだお前ら、揃いに揃って……」
ねえ、景吾……
その言葉、前と一緒だよ。
おかしくなって、あたしはバレないようにこっそり笑った。
「ばーか、お前のためのパーティだろ?」
「そうですよ、跡部さん」
勘の鋭い景吾だが、やはり今回も不思議そうな顔をしているから。
おかしそうに笑いながら亮が言い、長太郎も続けた。
「パーティだと?」
思案顔になる。
けど……この後は、あのときとはちょっと違った。
「そうか……今日は、4日か」
次はあたしの「セリフ」かなって用意してたのにな。
今回は自分で気づけたようだ。
「ふうん、今回はさすがに気付いたみたいやな」
「ハッ、そう何度もお前らの策にハマるかよ」
ちょっと残念そうにする侑士に、景吾は自慢げに言い放った。
「さ、前置きはここまでにして、始めよっか!」
そう言うと、みんなが一斉に行動を開始した。
「パーティ、楽しかったね」
「フン……そうか?」
帰り道、隣に居る景吾にそう言うと。
主役の俺様を差し置いてあいつらの方が楽しんでたじゃねぇか、
と、前みたいに返された。
でも、そんな憎まれ口を叩いてはいるが、やっぱり表情は優しい。
「言い出したのは……今回もお前か」
「うん、よく解ったね」
もう疑問形じゃないのは、それだけこの人が
あたしのことを理解してくれてる証拠だ。
そう思うと、なんだか嬉しくなった。
「……ねえ、景吾」
「何だ」
「なんかさ……みんな久しぶりに集まったのに、
あのときみたいに、何も変わらないよね」
そんな関係でいられる仲間がいるってことが、すごく嬉しかった。
「もう子どもじゃないから、何もかもあのときのままってことは無理だと思うし
それじゃいけないんだと思う」
でもね、景吾。
変わらずにいるものも、あってもいいんだなってあたしは思ったよ。
「そんなものが、あなたの周りにあること……
あたしは、それが嬉しい」
そんなあなただからこそ、ずっと側に居たいと思った。
そんなあなただからこそ、ずっと側で支えたいと思った。
「…………お前が俺の隣に居ることも、この先ずっと変わらねぇよ」
「うん……」
景吾、お誕生日おめでとう……
言いたいことは、やっぱり山ほどあるんだけれど。
今は、この歌だけ聴いてください。
Birthday song to you
October 〜After〜
(ずっと変わらずに この日を祝うよ)