「ねーね、センセー!」
「……何?」
廊下を歩いているところで、ふいに呼び止められる。
……声の主は解っていて、それでいて振り向きたくはなかったが、
そうするとそれはそれで後々面倒なので仕方なしに振り向いた。
「はいっ!」
「……?」
振り向いた直後、何かを差し出される。
条件反射で受け取って見てみると、それは……
「……!!!???
くっ……クモ…………!!!???」
大嫌いなクモ(しかも巨大)だった。
混乱したあたしは、それをそのまま手渡してきた本人に投げつけた。
「あっはは☆
センセーったら、これ作り物だヨ?」
そう言っておかしそうに笑う、問題児――ロキ・レーヴァテインは
投げつけられたクモを見事にキャッチし、掲げている。
「そんなの解ってるわ!!」
そんな巨大がクモがそうそう発見できてたまるかよ!!
「ええ〜? でもめちゃくちゃ驚いてたジャン」
「作り物でも嫌いなもんは嫌いなんだよ!!」
そう反論してみるものの、ロキはおかしそうに笑うだけだった。
「……はぁー、おもしろかった。
じゃセンセー、またね〜!!」
「あっ、ちょっと……!」
それだけ言い残し、スキップしながら立ち去っていった。
……ちなみに、これは毎度のパターンだ。
「…………はぁ」
こんな感じで毎回イタズラされてんだよね……
ぶっちゃけバルドルより標的にされる確率高い気がすんだけど、なんで?
そんな、考えてもしょうがないことを考えながら、
あたしは再び廊下を歩き出すのだった。
+++
「ホントおっかしーよね〜、あのセンセー」
毎回毎回イタズラに見事引っかかってくれるあのセンセー。
最初はいけ好かない奴って思ったけど、けっこう周りのこと見てるし、
「まぁ、今は割と好きな部類かもな〜なんて☆」
バルドルよりいいリアクションするときあるんだもんな。
これは、トリックスター・ロキ様としては本領発揮すべきジャン?
「ロキ」
そんなことを考えてたところで、センセーに声を掛けられる。
またいつものように「勉強しよう」とか「部活行こう」とかウルサイのかと思ったけど、
雰囲気的にそういう感じでもないっぽい。
「おっ、センセー!
何? どーしたの?」
茶化して聞いてみたものの、センセーは答えることなくツカツカとこちらにやって来る。
そしてオレの目の前で止まり、何かを差し出してきた。
なんだと思いながらも、それを受け取ったけど、その直後で気づいた。
――まさか、仕返しか……?
ま、オレは何が来てもセンセーみたいにビックリしたりしないけどね♪
そう思いながら受け取ったものを見てみると、綺麗にラッピングされた小さな箱だった。
「センセー、何これ? まさかビックリ箱?」
「そんなロキみたいなことするわけないでしょ」
じゃあ、何なの?
「プレゼントだよ、プレゼント!
今日、誕生日なんでしょ?」
結衣ちゃんが言ってたよ、と、センセーが続ける。
「誕生日おめでとう、ロキ。
こんなものしか用意できなくて、申し訳ないけど」
「えっ……あ、いや……」
「じゃあ、あたし学園長に呼ばれてるからもう行くね?」
またね、と言って、センセーは小走りに去っていった。
「ビックリしたりしない、はずだったんだけど……」
ビックリしすぎて呆然としたオレは、ただただセンセーの後ろ姿を見つめるだけだった。
さすがだよ、センセー
(トリックスターに不意打ちかますなんて、さ)