「……ん?」

自室に戻ると、机の上に何か置いてあった。
どうやら、手紙のようだ。





「……あいつから、だな…………」

それは、僕にとって大切な存在からの手紙だった。

あいつとは普段もこの館の中で会っているし、わざわざ手紙を出すまでもない。
だが、こうやって手紙が来ることは少なくなかった。



   『あたし、手紙のやり取り好きなんだ』



いつだったか、そんなことを言っていた気がする。
よく手紙を寄こすのは、そういった理由もあるのだろう。

そんなことを考え始めたが、とにかく、僕はその手紙を読んでみることにした。








   “ノヴァへ


   また手紙か〜って思ったでしょ! 正解?

  さっすがあたし、なんてね。ちょっとした冗談だよ。



   それでさ、お知らせっていうか、えーっと……

  ちょっとまた、詩を書いてみたんだ!ノヴァの好きな

  詩集には敵わないし、まとまりのない文章かもしれない

  けど、あなたに読んでほしい。時間のあるときでもいい

  から…ぜひ、目を通してください。お願いします!”









「また詩を書いたのか……この二枚目の手紙がそうか?」

あいつがこうやって自分の作った詩を見せてくるのは、もはや僕の日常だ。
でも嫌な感じは全くなく、むしろ僕にだけ見せてくれることが嬉しくて仕方がない。








“私の大切な君よ



   君が生まれてきてくれたことは とても尊くて

   そこに居てくれるだけで 私は満たされる

   その想いが 君に届いているだろうか

   その想いが 君の力になるだろうか・・・


   私が君のためにできることは 限られているだろう

   本当に小さなことだけ

   私は君に救ってもらえたけれど 

   私が君を救うことは出来ただろうか



     何の力も持たない私だけど

     いつも君の力になりたいと思ってるよ

     大切な君よ、

     いつか大きく羽ばたくであろう 大切な君よ




   これからもずっと 隣に居たいのに――……”







手紙を最後まで読み終えた僕は、すぐに部屋を飛び出した。



















「はぁ……はぁ……
 見つけたっ……!」

館中を走り回って、庭でようやくその姿を見つけた。





「あっ、ノヴァ!
 どーしたの?」

箒を手にしていた彼女は、不思議そうにしながらこちらにやって来た。
どうやら、庭の掃き掃除をしていたところだったらしい。





「どうしたの、じゃない……お前……」

僕は息を整えながら、手にした手紙を見せる。





「あっ、それ! 読んでくれたんだ」

そう言って嬉しそうに笑うが、そんな彼女を僕は睨みつけて言う。





「お前! あの詩は、なんだ!」

「なんだ、って……ふつーに詩だけど?」

「そういうことを言っているんじゃない!
 あの詩の、最後の文……あれは、何だ……?」



   “これからもずっと 隣に居たいのに――……”









「あれだとまるで、お前が僕の前から居なくなる予告だろう!」

そんなことは絶対に嫌だと思いながら、僕は詰め寄る。





「やだな、そーゆーんじゃないよ!
 ただ、そっちのほうが切なくて詩としてはいいかなぁと思って」

「なっ……」

そんな僕に対し、彼女はあっけらかんと答えた。





「……ごめんね、なんか心配させちゃった?」

「……………………もういい」

一人で勝手に焦っていたことが恥ずかしくて……
我ながら子どもっぽいとは思いながらも、僕はそっぽを向いた。










「ねぇ、ノヴァ」

「…………なんだ」

「手紙にあった詩、ちゃんと全部読んだ?」

そんなもの、読んだに決まってるだろう。





「あれ……いちおー誕生祝いだったんだけど?」

「……!」

そう言われてみれば確かに……。













「ノヴァ、お誕生日おめでとう!
 あたしは……あなたが嫌にならない限り、ずっとそばに居るよ」

眩しいくらいの笑顔でそう言った彼女に、僕は即答した。

































嫌になるはずないだろう





(彼女はまた、嬉しそうに笑った)