「……アシュか」
「あ、兄様、帰ってきた!」
「アシュヴィン、お帰り!」
「あ、あぁ……今、戻ったぞ」
数人の兵たちと共に視察に出ていた俺が戻ると、
そこには仲良く茶を楽しんでいる兄と弟と、妻の姿があった。
「……あっ、殿下、お戻りになりましたか」
「おい、リブ!
お前は一体何をしていたんだ!」
「いえ、そうは言われましても皇后陛下が……」
困った顔をしながら(いや、こいつは常にこんな顔だが)
あいつを見やり、リブはつぶやいた。
「俺はお前に、『あいつの護衛をしろ』と言ったはずだぞ。
なのに、何故それがサティやシャニと茶を楽しむことになる!」
「や、しかし殿下……
急に皇后陛下が、『お茶会をしたい!』とおっしゃるものですから」
だったら、あいつ一人で茶を飲んでいればいいだろう!
サティとシャニまで出てくる意味が解らん。
リブにそう言い捨てると、また同じような顔で「皇后陛下のご意向です」と答えた。
(つまり、リブもあいつには逆らえないということだろう)
「ねぇアシュヴィン、何やってんの?
こっちで一緒にお茶しようよ!」
「そうだよ、兄様!
おいしいお菓子もあるよ!」
俺の心中を知るはずもなく、二人はのん気にそんなことを言っている。
そんな様子を腹立たしくも思うが、いつまでも拗ねているわけにもいかない。
そう思った俺は、そのお茶会とやらに混ざることにした。
「リブ」
「はっ。ただ今、殿下のお茶をご用意します」
「ねえ、アシュヴィン。
村の視察、どうだった?」
「ああ、そうだな……まだ改善すべき点は多々あるが、
徐々に恵も回復し、良い方向に向かっているだろう」
「そっか……良かった」
そう言って、俺の言葉でホッとしたような顔をした。
「今日は机に向かわなきゃいけない仕事が多くて行けなかったけど、
今度は一緒に視察行こう?」
「それはいい考えだな。
では、次の機会にはそうするか」
「やった!」
仕事とはいえ、共に出かける約束が出来た。
ただそれだけで、俺は自分の機嫌が直ったことを自覚していた。
「…………アシュ」
「ん? なんだ、サティ」
「お前は本当に、あいつに左右されるな」
「ぐっ……」
まさかサティにそんなことを言われるとは思っておらず、
さらに図星をつかれ俺は言い返すことができなかった。
「……なんかアシュヴィン、またこそこそしゃべってるね?」
「まあ、兄様もあれでけっこう大人げないときあるし……
ね、リブ?」
「ええ、そうですね」
「……?
あ、そうだ!そんなことより、これ千尋が中つ国から送ってくれたお菓子なんだ。
二人の内緒話が終わったらみんなで食べようよ!」
「わあ、おいしそう!」
「(や、その前に……
アシュヴィン様が『そんなこと』呼ばわりされているんですが……)」
解っていないのは彼女だけです
(つまりヤキモチってことだよ、お姉ちゃん!)