『俺たちはそれでも構いませんけど……
たまには2人だけでお祝いしてみても、
いいんじゃないでしょうか?』
――9月下旬。
当時のレギュラーの中でも、一番相談しやすい後輩にメールすると。
そんな答えが返ってきた。
『あ、もちろん俺たちもお祝いしたいんですけど……!
たまには、そっちのほうが跡部さんもビックリするかなって思って』
確かに……
毎度同じ手法だと飽きてくるし、何より勘の鋭い彼のことだ。
今までのように、うまくサプライズを演出できないかもしれない。
『そうだね……
じゃあ、今回はあたしひとりで頑張ってみる!』
『ええ、きっと喜ぶと思いますよ』
何かお手伝いできることがあったらいつでも言ってください、
というメールを最後に、長太郎への相談事はひとまず終わった。
「さてと……
とりあえずどんな感じにするか、だよね」
うちなら場所なんていくらでもあるけど、なんか、
それだとあたしがやること無さそうっていうか……
お祝いにあたしらしさが無いような気がする。
「うーん……」
+++
「うーん…………」
そして早くも、10月4日・景吾の誕生日当日。
お祝いの流れは、ほぼ決まったから……
あとは、スムーズに進めるように作戦を練らないとね。
さて、どういう風に準備を進めようか……
「う〜〜ん……」
「……?」
+++
「…………あ、跡部さん!」
「長太郎か……久しぶりだな」
「はい」
仕事を終えて、駅に向かうべくビル街を歩いていると。
ちょうど会社を出てきた跡部さんと遭遇し、俺は声を掛ける。
すると、さほど驚く様子もなく言葉を返してくれる。
お互いの勤める会社が近い場所にあるから、
たまにこうして遭遇するんだ。
「お疲れ様です。今からお帰りですか?」
「ああ、今日はな。
……なぁ、長太郎」
「……?」
「最近、あいつと何か連絡を取り合っているか?」
「あいつ、って……先輩のこと、ですよね」
そう言うと、跡部さんは少し間を空けて頷いた。
この人にしては珍しい態度だな、と思いつつ……
その問いの意味を探ろうと、俺は言葉の続きを待つ。
「数日前から何やら悩んでいる様子でなァ……
『何かあったのか』と聞いても、『心配いらない』の一点張りだ」
「そうなんですか……」
「相談事ならお前が一番だ、と言っていたのを思い出してな。
何か知っていればと思ったんだが」
「…………」
俺が中学に入り、出会ったばかりの頃の跡部さんなら、
後輩の俺にこんなことを言ったりはしないだろう。
この人にとっては、これだけのことも「弱音」となるのだろうし、
他人にそんな弱いところを見せたがらないはずだから。
先輩の影響で跡部さんもだいぶ変わったな……なんて、
俺は少し場違いなことを考えてしまった。
「ええと、跡部さん……
たぶん先輩の言う通り、本当に心配いらないと思いますよ」
「アーン?
その口ぶりからすると、何か知ってるってことか」
「いえ、そうじゃないんですけど……
先輩は、困ったことがあったらちゃんと言葉にすると思うので」
悩みを隠しても周りに余計な心配をかけるだけだ、
と考えるのが先輩でしょうし。
――本当は、悩んでいる理由も知っているけど。
この人に知られるわけにもいかず、
俺はそんな風に自分の考えを伝えた。
「……まァ、確かにそうだな」
良かった、どうやらうまくごまかせたみたいだ。
ここでバレてしまっては「サプライズ」にはならないので、
俺は跡部さんに解らないようホッと息をつく。
「とにかく、跡部さん。
早く帰って、先輩の様子を少しうかがってみてはどうでしょうか」
「あァ、そうだな」
また後でな、と言い残し、
そばに停めてあった車に乗り込んで帰っていった。
「家に帰れば、先輩の悩んでいた理由が解りますよ……きっとね」
その車が小さくなるまで見送ってから、俺はそうつぶやいた。
October〜The Next〜
(あの人たちは、いつまでも変わらないだろうな。)