“今、仕事が終わった”
旦那様からそんなメールを受け取ったのと、同じとき。
あたしはというと、近所の大きめな公園に居た。
その旨を伝えると、“すぐに向かう”とだけ返事が来た。
「……来てほしい、とか、まだ何も言ってないんだけどな」
まあ国光なら、あたしが言おうとしてることなんて、簡単に想像つくんだろうけどさ。
そう思いながら、そばにあるベンチに腰かけた。
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「待たせたな」
なんとなく腕時計に目をやり、そろそろかな、なんて考えていたとき。
ピッタリなタイミングで声を掛けられた。
「ううん……別に、約束してたわけじゃないし」
そんなに慌てなくても、大丈夫だったのに。
「いや……最近は夜も冷え込むだろう」
そこまでしか言わなかったものの、
あたしを長時間待たせないようにと思ってくれたことはすぐに解った。
……ああ、あたしもあたしで、国光のこと簡単に想像できちゃうんだな。
お互い解り合えているみたいで、ちょっと嬉しくなる。
「何がおかしいんだ?」
「なんでもないよ」
嬉しかったというのが、顔に出てしまったらしい。
でも、あたしは詳しく話さずにはぐらかした。
「……この時間に、お前が外に出てくるのは珍しいな」
あたしの隣に腰をおろしながら、国光が言う。
……まあ、確かに。
この時間はいつも、家でご飯作ってる時間だからね。
「うん、まぁ……大したことじゃ、ないんだけど」
「……?」
ハッキリしないあたしを、訝しげな顔で見つめる。
「たまには、一緒に帰ってみようかなって……」
「休日に出かけたときは、一緒に帰っているだろう」
「いや、そうなんだけど……」
仕事の日だから、いいんだよ。
なんかこう、学校の帰り道っぽくてさ……
「……あーもう、やっぱ忘れて!
我ながら変なこと言ってる自覚あるから」
いい年した大人が、学校の帰り道ってちょっと……
言っちゃったあとで既にもう遅いけど、かなり恥ずかしい……!
「…………そうか」
そして、すっと立ち上がり……
「……国光?」
「これ以上冷え込む前に帰るぞ」
「……!」
あたしに向かって、手を差し伸べてくれる。
「……うん! 帰ろ!」
嬉しくなって、あたしはその手をぎゅっと握った。
「…………えへへ」
――公園で待ち合わせすることが、目的じゃない。
ただ、一緒に帰りたかっただけなんだよ。
それを、解ってくれてありがとう。
さあ、一緒におうちへ帰ろう。
(なんてったって、今日は誕生パーティだからね!)(そういえば、そうだったな)(忘れてたんかい!)