「…………」

――目を閉じれば、こうしてすぐに思い出す。
あなたとの、軌跡を――……










「お待たせ、黒子くん」

遅くなっちゃってごめんね。
彼女は、眉尻を下げてそう言った。





「いえ……
 そんなに待っていないので、大丈夫です」

気にしないでください、と続けると、
彼女に少し笑顔が戻った。





「えっと……じゃあ行こっか、初詣!」

「はい」

彼女の言葉に合わせ、ボクは左手を差し出す。
すると、照れたように少し笑ってその手を取ってくれた。










「ねえ黒子くん、聞いてもいい?」

「何でしょう」

歩き出してから間を空けずに。
彼女がそんなことを言った。





「さっき……
 うちの前で待っててくれたとき、目をつぶってたよね」

「……見ていたんですか」

「うん……
 何か、考え事でもしてたの?」

彼女は少し、心配そうな顔をしている。

……自覚は無かったけれど、
そのときのボクの表情が、いつもと違ったのかもしれない。





『黒子くん、今日なんだか嬉しそな顔してるね。
 何かいいことあった?』






自分で言うのも何だけど、ボクはあまり、
感情を解りやすく表に出すことがない。


だから、そういう風に言われるのはとても新鮮で……
でも、とても嬉しかった。

彼女が、それだけボクのことをよく見てくれているのだと、
実感できたから。


さっきもおそらく、ボクの表情に
何かいつもと違うものを感じ取ったのだろう。










「あまり心配しないでください。
 悪いことを考えていたわけではないですから」

「あ、そうなんだ……それなら良かった」

曇りかけた彼女の顔に、再び笑顔が戻る。
……あぁ、やっぱり笑顔のほうが断然いいな、と思った。





「去年のことを、少し考えていました」

「去年のこと?」

「ええ」

去年は、ボクにとって本当に色々なことがあった年でした。
帝光を卒業して……誠凛に入学して。

火神くんやカントク、先輩方と出会ってチームメイトとなり、
みんなで一丸となってたくさんの試合に挑んで……。





「色々なことがありましたが……
 やはり思い出すのは、バスケのことばかりです」

「うん……それはそうだろうね」

そう言って彼女は、優しく微笑む。










「けど、バスケと同じくらい……
 あなたのことが、思い出されました」

「えっ……あたしのこと?」

「はい」

インターハイのあと、あなたが急に現れて……

それからカントクの家に居候するようになって。

その関係でボクたちのバスケ部に顔を出しては、
身の回りのことを引き受けてくれたり……





「あなたは、話せば話すほど不思議な人でした」

何のためらいもなくボクたちを信じて、尽くしてくれて。
少し抜けているところもあるけれど……

でもたまにくれる言葉は……やはりこの人が年上で、
ボクたちよりたくさんのことを知っているのだと
思い知らされることもあったりして。

その言葉や、屈託のない笑顔に救われたことは
一度や二度ではなかった。





「でも……
 そんなあなただから、ボクは惹かれたんだと思います」

そんなあなただから……
一緒に居てほしいと、心から思いました。





「あの……あなたが嫌でなければ、
 今年も来年も、その先もずっと……ボクと一緒に居てください」

「…………うん!」

喜んで、と言って、
その人は本当に嬉しそうに笑った。




























ボクの思い出には いつだってあなたが居る






(この先つくっていく思い出にも どうかあなたの姿がありますように)