「…………」


「こんにちはー……じゃなかった、こんばんはー!」

――とある日の、すっかり日が暮れた時間帯。
あたしはヴァスチェロ・ファンタズマにやって来ていた。

と、いうのも……










「……あっ! 来てくれたのね、お嬢さん」

あたしの姿を見つけて声を掛けてくれたのは、
けっこう長いことこの船で暮らしているらしい
若い女性の幽霊さんだった。






「はい! 今どんな感じですか?」

船の主がそーゆー掃除とかにあまり関心を示さないためか、
最近どうも船内の汚れが気になる……

とゆう意見が、幽霊の皆さんの間で上がったらしく。

彼らが活動できる夜の時間帯で今日、
一斉に掃除をするとの話を数日前に教えてもらった。





「今はね、みんなで手分けしてやってるところよ。
 甲板は終わったから、船内にかかり始めてね」

その話を聞いたときに、
ぜひお手伝いさせてほしいとお願いして。

今日こーしてこの時間帯にやって来たとゆーわけだった。





「なるほど……。
 あたしは、どーしましょう?」

「そうね……
 お嬢さんには、やっぱりあの部屋を頼もうかしら」

そして、あたしは指定された部屋に向かった。
















トントントン


「失礼しまーす!」

ノックをしといて何なんだけど、
あたしは相手の返事を待たず部屋の中へと入った。





「……寝てる?」

入ったとたんに怒られるかと思いきや、
予想していた怒号は響かず……

部屋の主は、机に突っ伏してぐっすり眠っていたのだった。





「アッシュ?
 お〜い、アッシュ〜〜?」

ほっぺたをつついてみるが、反応は無い。










「うーん……」

状況から見るに、錬金術の実験中だか何だかに
疲れて寝ちゃったんだと思われる。





「お姉さんには、この部屋の掃除を頼まれたけど……」

なんか勝手にいじると後で怒られそーだしなぁ……





「……しょーがない、今日は別の部屋にしときますか」

そんな独り言を言いつつ……

夢の中に居る船の主にブランケットをかけてから、
あたしはその部屋を出た。















……――翌日の夜。


「……おい、お前ら!
 アイツが来たときは、呼べって言っただろ!」

「あら、のん気に眠ってたのはアッシュじゃない」

食堂に集まっていた船の住人たちにそう言うと、
「そうだ、そうだ」なんて声があちこちから沸いた。





「それになぁ、アッシュ。
 お前を起こさないでくれって、彼女に頼まれたんだぞ」

「疲れてるみたいだから、そっとしておいてあげてって
 お願いされちゃったのよねぇ」

まあ、確かにアイツならそう言うかもしれねぇが……





「だが、この船の主は俺だぜ。
 主の言うことを普通は優先するだろうが」

「なーに言ってんだよ!
 彼女とお前なら、彼女の言うことを優先するだろ。
 なぁ、みんな!」

その言葉に対し、再び「そうだ、そうだ」という声が上がる。

つーか、コイツらのこの団結力、何なんだよ……
アイツと出会ってから、やたらアイツの肩持つしな。










「まあまあアッシュ、そんなにイライラすんなって」

「……してねぇ」

「してるじゃないの、全く。
 でも大丈夫よ、心配しなくても」

「……?」

その言葉の意図が読めず、俺は首をかしげる。





「彼女、今日も来てくれるって言ってたわ。
 昨日と同じくらいの時間だって言ってたから、そろそろ……」










「こんにちはー! じゃねーや、こんばんはー!!」










「……!」










「見たことないくらいの速さで走ってったな、アッシュのやつ」

「よっぽど彼女のこと好きなのねぇ」

「ハハッ、違いねぇ」


























来てたんなら、ちゃんと声かけてけよな




(そう言ったら 珍しく困ったように笑った)











「いや、なんか相当疲れてんのかなーと思ってさ」

「疲れていようが何だろうが、
 来てたんならお前に会いたかった」

「え!」

「……その信じられねぇもん見るような目やめろ

「だってさぁ……!」