「……あっ、来た来た! 凛〜!」
もうすぐ集合場所に着く、ってところで、
自分を呼ぶ声が聞こえた。
少し下がり気味だった視線を上げて先の方を見ると、
その声の主と、他のメンツが既に集合している。
「悪り、遅くなった」
「まだ時間前だから大丈夫だよ、凛」
いつも通りの笑みを浮かべた真琴がそう言った。
どうやらこいつら、揃いも揃って早く着きすぎたらしい。
「僕すっごく楽しみだから、早起きしちゃった!」
「ええ、僕もです!
昨日いろいろ調べてみたんですが、素晴らしい場所みたいで」
なんて言い合いながら、渚と怜がはしゃいでいる。
「まぁ、他はともかく……
お前が先に来てるなんて珍しいな、ハル」
「俺は……まだ早いって言ったのに、
こいつがもう行くってきかないから」
不満そうな顔をするハルが、
さっき俺を大声で呼んだやつを目で指す。
「だってさ、あたしも楽しみだったんだもん!
まだ早いって解ってたけど、落ち着かなくてさ」
それでハルを引っ張って、家を出てきたらしい。
「でも、そーゆー凛だって時間より早いじゃん?」
「いや俺は、別に……」
「凛ちゃんも楽しみだったんだよねー!」
答えをごまかそうとする俺の前に、渚が割って入ってきた。
「おい、渚!」
「むぐぐぐ〜!」
余計なことを言われる前に、渚の口をおさえた。
「ったく……全員集まったんなら、とっとと行くぞ。
真琴、最初は電車だったな?」
「あ、うん。まず電車で移動だね」
「それじゃ、駅に行こっか!」
「わあ……!」
「すごいね〜!」
「本当に、綺麗です……!」
目的地に着くと、事前に調べていた通りの桜並木が
向こうの方まで続いていた。
「ねえ、怜ちゃん!
もっと向こうに行ってみようよ!」
「いいですね、渚くん!」
「ちょ、ちょっと、二人とも……!」
真琴の呼びかけにも答えず、
そう言って後輩二人は走り出してしまった。
そんな真琴も二人に触発され慌てて歩き出し、
ハルもそれに続いた。
「おい、お前ら!
あんまりはしゃぎすぎんじゃねぇぞ」
「「はーい!」」
「ったく……
……ん?」
念のため二人に釘をさしたところで、ふと視線を感じた。
その視線の主を見やると、何か言いたそうな顔をしている。
「どうした?」
「いや、うーん……」
問いかけるが、少し歯切れが悪い。
けど何か続きがありそうな気もしたから、ひとまずは俺も黙る。
「なんか、ホントに凛ってお兄ちゃんだな〜って思ってさ」
「……そうか?」
「うん! ふつーに面倒見いいもんね。
江ちゃんが羨ましいなぁ、あたしも凛みたいなお兄ちゃんほしい」
「はぁ? 何言ってんだよ。
兄妹だったら結婚できねぇだろうが」
直後、そいつは驚いた顔をしたまま固まって。
なんか変なことを言ったのかと考えたが……
あいにく何も思い当たらない。
「け……結婚して、くれるんだ……」
「決まってんだろうが」
「……!!!」
不思議そうに言うもんだから、ごく当たり前に肯定したら
「ボン!」と音が付きそうな勢いで顔を真っ赤にした。
「なんか、いっつも凛には勝てない気がする……」
「……?
何ブツブツ言ってんだ、行くぞ」
「う、うん……」
初めは戸惑いながらも、俺の差し出した手をとる。
それをしっかり確認してから、先に行ったやつらに続いて
俺たちもようやくその桜並木を歩き出した。
この桜に誓う
(俺がずっと コイツをそばで守っていくから)