『もしもし』
「あっ、もしもし、日向くん?」
『うす。どうしたんすか、急に電話なんて』
深い意味はなく、なんとなく疑問に思って
そう問いかけたようだった。
そのことに少し安心して、あたしは本題を切り出す。
「うん、あの……日向くん今、家かな?」
『はい、ウチにいますけど』
それなら良かった。
「ちょっと用があって……
今、家の前にいるから、出てきてもらえる?」
『えっ!?』
直後、繋がったままの電話越しに
ドタバタと慌ただしい音が聞こえ……
勢いよく玄関のドアが開かれた。
「ど、どーしたんすか、急に!」
「ちょっと用があって……って、さっき言ったよね?」
「いや、それはそうっすけど……」
まぁ確かに、連絡もなしに急に来ちゃったからなぁ……
「……もしかして忙しかった?」
「い、いえ、全然!」
「そっか、良かった」
はい、と言いながら、あたしは
ラッピングされた箱を日向くんに差し出す。
「……? これ何すか?」
「プレゼント。今日、お誕生日だよね。おめでとう」
「……!」
今日のうちにどうしても渡したくて、
急に訪ねてきちゃったんだけど。
「でも、直接『おめでとう』も言いたかったし」
日向くんが家にいてくれて良かったよ。
「あ、いや、その……
ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
お祝いされたことがよっぽど嬉しかったのか、
日向くんは顔を真っ赤にしてそう言った。
「……あ、あの!
この後なんか予定あるんすか?」
「この後? 別に何もないけど……」
これ渡したら、すぐ帰るつもりだったし……。
「そ、それなら、この後オレと一緒に出掛けてください!」
「えっ、いいの? せっかくのオフなのに」
「オレがそうしたいんで!!」
もったいないんじゃ? と思ったけど、
ここまで力説されて断るのも良くないかな。
そう思ったあたしは、そのお誘いを受けることにした。
「待っててください、今、5分……
いや、3分で準備してくるんで!!」
「そ、そんなに急がなくても待ってるよ。
慌てて怪我でもしたら大変だから」
「そんなヘマしねーんで!」
「あっ……待って!」
ほんとに3分で支度をしてきそうな勢いの日向くんを、
その腕をつかんで慌てて引き留める。
「……!」
さすがに腕をつかんだからか、
動きを止めてこちらを振り返ってくれた。
「日向くん、あたし……ちゃんとここで待ってるよ。
危ないから、ゆっくり支度してきて」
何時間待たされたとしても、
あなたのことなら待っていられるから。
「…………うす」
小さな声でそう答えた日向くんは、
出てきたときとは違い普通に家の中に入っていった。
「あー、ちくしょう……」
あんなん、ただの殺し文句だろ
(どういうつもりで言ったのかが 気になるけど……)