「笠松センパイ、聞いたッスよー!」
脈絡もなしそう言いながら、黄瀬が体育館に入ってきた。
「もう、センパイったらとぼけちゃって〜」
話は見えねぇが、とにかくイラッと来たので
一発蹴りをお見舞いする。
「いって! ちょっとセンパイ、
ここ蹴り入れるところじゃないッスけど!?」
(かなり思いっきりやったから当たり前だが、)
相当痛かったのか、涙目になりながら言った。
「ま、まぁそれは置いといて……。
明日、彼女が来るらしいじゃないッスか」
「……!」
こいつ、どこでそれを……
「昨日メールしてたら、彼女が教えてくれたんス♪」
「…………」
そーいや確か、割と頻繁にメールしてるとか……
「いってー!
ちょ、ちょっとセンパイ、今のは何の蹴りッスか!?」
「知るか」
「ええっ!?」
つーか、あいつもなんで黄瀬なんかと
頻繁にメールのやり取りしてんだよ……
……いや、確かに知り合いが少ないって言ってたから、
こいつも数少ない友達の一人なのかもしれねぇけど……
「センパイだってもっと頻繁に
メールや電話すればいいじゃないッスか〜」
「……うるせー」
あいつからメールや電話が来たことは、一度もない。
いつだってオレからだ。
けど、それだって本当にたまにだから、
ほとんど連絡を取り合ってないと言ってもいい。
「……彼女も、センパイも忙しいだろうしって
気を遣ってるみたいッスけど」
「…………」
「でもセンパイと彼女って、
そんなに気を遣わなきゃいけない仲なんスか?」
「……!」
オレが……あいつに気を遣わせてるのか?
「まぁ確かに、センパイってもともと女の人が苦手だったから、
しょうがない部分もあるのかもしれないッスけど」
「…………」
「もうちょっと、思ってることは言ったほうがいいッスよ」
思ってることは、言った方がいい……か。
「んじゃオレ、練習の準備してくるッスね!」
そう言い残して、黄瀬は用具室の方に向かった。
「……チッ」
黄瀬の言う通りにするのは癪だが、一理あるからな。
+++
「……あっ、電話……って、笠松くんから!?」
どうして突然……
「……もしかして、明日のことで何か変更とか?」
とにかく、早く出ないと……!
「は、はい、もしもし!」
『ああ……オレだけど』
「お疲れさま、笠松くん!
珍しいね、電話なんて。何かあった?」
『いや、その……』
何か煮え切らない様子の笠松くん。
でも、こういうときっていつも、
何か伝えようとしてくれてるときだし……
そう思いながら、あたしは彼の言葉の続きを待つ。
『えっと、その……べ、別に迷惑じゃねぇから、
電話もメールも好きにしてくれていい』
「……!」
なんで、そのこと……
……って、確実に黄瀬くんだよね。
ついボヤいたこと、笠松くんに言っちゃったんだ。
全くもう……。
でも、それを言うために電話くれたって思うと、
すごく嬉しいな……。
「ありがとう、笠松くん……
お言葉に甘えて、これからはたまに電話はメールするね」
『たまにでいいのか?』
「うん、いいよ。だって頻繁に連絡取り合ったら、
会わなくていいやって思っちゃうかもしれないし」
『それは困る』
さっきの言葉もすごく嬉しかったけど、
今こうやって即答してくれたことも嬉しい。
何だか今日は、嬉しいづくしだな……。
「他に何か、話しておきたいことある?」
『い、いや……特には』
「そっか……
じゃあ明日、楽しみにしてるね」
『おう』
わざわざありがとう、と言って、あたしはその電話を切った。
練習終わり、こそこそするセンパイの様子を探っていたら
(やっぱり彼女に電話してたんスね〜♪)