「会いたいなら、会いに行けよ」
その一言で、私は走り出した……
……――夜の道を走り続けていた私は、 アイツの家とは別の方向に向かっていた。
ふと足を止める。
……学校の前だった。
会いたいなら家に向かえばいいのに……
なぜ学校に来てしまったんだろう?
どんなに考えても分からない。
たぶん、本能みたいなものだと思う。
ここにアイツがいる…………
なぜかそんな衝動に駆られて走ってきたのだ。
夜の学校。
もちろん、誰もいない。
正門もきっちり閉まっていて、
普通の人なら飛び越えることも困難だろう。
……生憎、私は普通の人じゃないからね。
簡単に飛び越えられるけど……。
スタッ
門を飛び越え地面に着地した。
校舎の方へと歩いていく私……
……?
何かの気配を感じた。
暗くてよく見えないのだけれど、 私はその「何か」に見られてると思う。
ただし、殺気は感じない。
……というより、見えなくたって雰囲気で誰だか分かった。
私が
夜の道を走ってきたのは
この人に会いたかったからなんだよ
「……なんでこんな所にいんだよ……しかも、こんな時間に」
「そういう自分こそ」
アイツの言葉に対し、私はそっけなく返した。
「お、俺は……修行だよ、修行」
「修行、ね……」
明らかに嘘だった。
だって、目だって泳いでるし噛んでるし……。
それにコイツは嘘をつくのが下手だし。
「……って、なんで俺が質問したのに俺が答えてんだよ。
お前は?」
「私?私は…………」
“アンタに会いに来たから”
そんなことは言えなかった。恥ずかしいのもあるけど、
第一、私たちは別に付き合ってない
ただのクラスメイトだし。
そんなことを言ってどうなるんだろう……。
「おい……どうした?」
私が黙り込んだことを不審に思ったのか。
ちょっと心配そうに私に声を掛けた。
「あ……ううん、大丈夫。ごめん」
「べっ別に平気ならいいけどよ……」
……あぁ、
そんな風に時折みせる優しいところも
大好きなんです
「…………で?」
「ん?」
「これからどうするんだよ」
「??」
「〜〜!だから!こんな夜遅くに学校に来たんだから
何かやりたいことがあったんじゃねーのかよ!!
例えば忘れ物とりにきたとか!!!」
私が要領をえていなかったためか、コイツは
息する間もなく一気にまくし立てた。
「あ、あの、えっと……」
「……なんだよ」
「…………やっぱし、もう帰る」
「はぁ?」
呆れた?
「ホントは目的があって来たんだけど……
もう、それは達成されたからいいの」
「なんだよ、目的って……」
「…………」
ここで言ってみようか。
言えば何か変わるだろうか。
私たちの関係が壊れたりしないだろうか……?
「……に…た…から」
「あ?」
「アンタに……会いたかったから…………」
「!」
アイツは私の言葉を聞いてビックリしていた。
さて、次に何て言ってくれるのだろう……?
「じゃあね、ばいばい」
…………なんて、次の言葉が気になったけど
聞くのが怖い気がして自らその会話を終わらせた。
会いたかった。
だからこの夜の道を走ってきたのだ。
そして、会えた。
言いたいこととか、たくさんあるのだろうけど
今の私にとっては会えただけで充分だったんだ。
明日も学校だし帰って寝よう。
そうだ、私の背中を押してくれた人にもお礼を言わないと。
「……待てよ!」
「!」
引き止められるなんて思わなかった。
私にはまだ、この気持ちを伝える勇気が無かったから、
明日また会ったときに
「昨日?私ずっと家にいたよ。幻じゃない?」
とか言って誤魔化すつもりだったのに。
今、追究されたらどうすればいいのだろう。
やっぱり言わなければ良かった……?
「……送ってってやるよ」
…………え?
「でも……」
「いいから送ってってやる!」
「あ、うん……ありがと」
「…………別に」
そして、アイツは続けた。
「俺も……お前に会いたかったんだよ…………」
帰り道は沈黙が続いていたけど
それも心地いいくらいに
きみのことが好きだよ
この道を駆け抜け、僕は君に会いに行く
(いつだって心のままに動くよ)