「ただいま、平助〜……って、あれ?」
買い出しから帰ってきて声を掛けるが、
家の中に人の気配は無かった。
どうやら外に出ているらしい。
「おかしいなぁ」
今日は天気がいいから散歩でもしようと、
朝から二人で話していた。
あたしは「先に買い出しを済ませてくる」と伝え、
一人で出かけていたんだけど……
戻ってきたら、平助の姿がない。
「どうしよう……」
約束を違えるような人じゃないから、
そう遠くには行ってないだろう。
けど明らかに、家の中には居ないし……
「……よし、ちょっと探してみよう」
持っていた荷物をひとまず置いて、
あたしは再び家を出た。
「……あっ」
再び家を出て間もなく……
意外と簡単に見つけることが出来た。
すぐ裏にある、大きな木の下。
その木陰に、平助は寝転がっていた。
「眠ってる……?」
今はほとんど無くなってきたけど、やっぱりまだ
明るい時間帯に眠くなることもあるようだ。
「…………でも、良かった」
幸せそうな顔をして眠っている。
あたしはそのことに、ひどく安心した。
――羅刹になってしまってから、
平助はずっとつらい思いをしてきたのだ。
それが今は、こうして穏やかに眠っている。
ただそれだけのことが、嬉しくて仕方がない。
「……っ……」
嬉しくて仕方がなくて、ふいに涙が出てきた。
幸せを感じて泣いてしまうだなんて、
十年前のあたしは想像していただろうか。
……否、していないと思う。
「お、おい、どうしたんだ!?」
「えっ……」
平助が隣で慌てながら問いかけてくる。
いつの間にか起きていたらしい。
あたしが泣いているのを見て
相当焦っているようだ。
「も、もしかして、散歩行くって言ってたのに
こんなところで寝てたからか!?」
平助の言葉がおもしろすぎて、
あたしはつい噴き出してしまった。
「まさか、違うよ」
「じゃあ、なんで……」
「ただ嬉しかったんだ」
たくさんつらい思いをしてきた平助が、
幸せそうに眠っていたから。
「それだけで、なんか涙が出てきて……」
だから、悲しくて泣いてたわけじゃないの。
むしろ幸せで、嬉しくて……。
「…………」
そこまで言うと、平助は複雑そうな顔をして
黙り込んでしまったけど……
「お前が隣に居てくれるからだよ」
あたしの目をまっすぐ見て、そう言った。
「お前が居てくれるから、
オレはこうして生きていられる。だから、」
ありがとな。
その言葉が嬉しくて、また泣いてしまったけど。
さっきみたいに慌てることはなく……
平助はただ、あたしの頭を優しくなでてくれた。
あれから十年後、ここで君と
(今の幸せについて 話せている)