「あっ、すみません……!」
とある日曜日。
図書館に来ていたオレが、目的の本を見つけたとき。
よそ見をしてたんだか知らねぇが
ぶつかってきた女が慌てて謝ってきて。
「いえ、こちらこそ……」
「……あれ?」
営業スマイルで軽くかわそうと思ったが、
その女が何かに気付いたような声を挙げる。
そしてよくよく見てみると、そいつは。
「花宮くん!」
「…………お前かよ」
ぶつかってきた女がこいつだと気づき、
オレは一気に脱力した。
「ほんとにごめんね、花宮くん。
本を探すのに、夢中になっちゃって」
「別に気にしてねぇから、何度も謝んな」
「……!」
オレの言葉に、こいつが目を見開いて驚く。
「なんだ、その顔は」
「いや、えっと……花宮くんの口から、
そんな気遣いの言葉が聞けるとは」
「喧嘩売ってんのか、お前」
「そういうわけじゃないけど」
でも珍しいなって思って。
そう言ったこいつは、何故か嬉しそうだった。
「……で、お前の探してた本って何だよ」
「え?」
「探してやる」
「あ、えっと……これなんだけど」
そう言いながら、持っていたメモを手渡してくる。
オレはそれを見てから、今いる場所を確認した。
「お前これ、探す場所間違ってんぞ」
「うそ!?」
「このジャンルはもっと先の棚だ」
大方、メモするときに棚番号を間違ったんだろう。
「だから、見つからなかったんだ……」
「ジャンルが違う時点で気づけよ」
「いや、そういうものなのかなって」
ハァ?
どんだけバカなんだよ、こいつ。
「チッ……ほら、さっさと行くぞ」
「あ、待って、花宮くん……!」
オレがさっさと歩き出すと、
こいつも慌てて追いかけてきた。
「……えへへ」
「何のん気に笑ってやがる」
「ううん、ただ……
花宮くんって、やっぱり面倒見いいなって」
「…………そうかよ」
どう答えていいか解らなくなったオレは、
ただそれだけを口にした。
「ありがとう、花宮くん!
おかげで探してた本を無事に借りられたよ」
「そりゃあ良かったな」
「うん!」
嫌味で言ったつもりが、全く効かなかったようで。
満面の笑みでそう返されてしまった。
「ああ、クソッ……」
この女のこういうところ、ホントにムカつく……。
けど一番ムカつくのは、この笑顔を見て
「悪くねぇ」って思ってる自分だった。
「花宮くんは、まだ時間ある?」
「あるっつったらどうすんだ」
「お腹すいてきたから、
お昼食べに行こうかなと思って」
もし良かったら、一緒に行かない?
「…………」
今までのオレだったら、まずは断ったはずだが……
「…………しょうがねぇな」
今までのように断れる自信は、もう無かった。
「ありがとう、花宮くん」
そんなオレの心中など知らないこいつは、
またのん気に笑ってそう言うのだった。
こいつの笑顔には、敵いそうにない。
(本当にムカつく話だがな)