『今日は用があるから、別の道から帰る』


そう言ったハルと校門で別れ……
俺はひとり、家までの道を歩いていた。





「真琴」

歩き出してから割とすぐ、ふいに名前を呼ばれた。

……もちろんハルじゃない。
でも、声が聴きたいな、とちょうど考えていた人だった。





「どうしたの?」

笑顔で手を振っていた彼女のそばまで、慌てて駆け寄る。





「ちょっと、真琴と一緒に帰りたいなって思って」

「えっ……」

彼女は、訳あってハルの家に居候している。
だから用があるなら、家の前で待ってる方が楽なのに。

――わざわざ、ここまで来てくれたんだ。

たったそれだけのことが、すごく嬉しい。





「そうだったんだ……ありがとう」

「お礼を言われることじゃないよ」

ただの、あたしの我が侭なんだから。

そう言っておかしそうに笑うけど、俺は本当に嬉しかったから。
もう一度だけ、「ありがとう」と言った。










「だいぶ日も短くなったよね〜」

「そうだね」

辺りはもう真っ暗だ。

そう思ったところで、ハッとなった。





「来るとき、大丈夫だった?」

「うん。まだ明るかったから」

最低限のことしか言わなかったけど、
彼女にはちゃんと伝わったようだ。

危なくなかったよ、と、続けた。





「それならいいんだけど……
 暗くなってからひとりで出歩くのはダメだよ?」

「はいはい、解ってます」

真琴は心配性だなぁ。





「心配性にもなるよ」

――だって、君のことなんだし。

俺がそんな風に言うとは思ってなかったのか、
彼女は目を丸くしている。





「……ありがとう」

そして、ちょっと照れくさそうに、
でも嬉しそうにお礼を言った。










「…………」

家が見えてきたところで、ふいに彼女が立ち止まる。





「どうしたの?」

俺も足を止め、黙り込んでしまった彼女に問いかけた。





「……真琴」

「うん」

「お誕生日、おめでとう」

「……!」

――ああ、そうか。

彼女はきっと、これを言うために学校のそばまで来て
俺のことを待っててくれたんだ。





「ありがとう」

彼女のたった一言で、こんなに嬉しくなるなんて。

そんなことを冷静に考えながらも、
きっと顔にはそのまま出てたんじゃないかな。















君の言葉は魔法の呪文


(たった一言がこんなにも、俺の心を明るく照らす)






「ちなみに、プレゼントは明日です」

「ああ……みんなでパーティ開いてくれるんだっけ」

「学校も休みで、みんな集まれるからね」

「そっか、楽しみだなぁ」