「フッ、貴様もここで終わりだな」
刀を手にした男・数人が私を取り囲んでいる。
一言で言えば、絶体絶命という状態。
「私に勝つつもり?」
「つもりも何も、この人数ではお前とて倒せまい」
ニヤリ、という効果音が付きそうな顔で一人の男が笑う。
…………悔しいが、それは事実なのだと理解できた。
「お前のところの派閥は、お前さえいなければただのカスだ」
「お前を始末して、その派閥も潰すぜ」
私が所属している派閥は、いわゆる攘夷団体だ。
この男たちが所属しているのも、攘夷団体。
…………異なるのは、その思想。
私たちの団体は、過激派たちの行動を止めることが多い。
そのため、恨まれることは少なくなかった。
今回も、例に漏れず私は狙われている。
――否、この男たちは、私を確実に仕留めようと計画を立ててきたようだ。
剣術で劣っているつもりは、無い。
だが、時としてその数の差が状況に大きく出る。
その時が、今なのかもしれない。
そう思った私は、今一度自分の腰にある刀の柄を強く握った。
「お前にはここで消えてもらうぜ!」
一斉に飛び掛ってくる男たち。
その動きの一つ一つを、私はしっかりと見る。
男は、全部で十人。 うまくやれば、全て倒せる。
「ぐあっ!」
…………一。
「ぎゃああァァ!」
…………二。
「ぐはっ……!」
「うああ……!」
…………三、四。
…………五、六、七、八、九。
あと一人だ、と思った瞬間。
その男の姿を、私は見失った。
「しまった…………!」
殺やれる…………!
だが、刀に斬られた痛みが、私を襲うことは無かった。
代わりに聞こえたのは、その男の断末魔で。
「…………お前、ここで何をしてる」
漆黒の髪が、同じく漆黒の闇の中で、月明かりに照らされていた。
「こいつら、攘夷志士だろ。 お前、なんでこいつらとやりあっていた?」
月明かりに照らされたその姿が、綺麗、だなんて。
「私は、…………」
私は黙ったまま、向こうの方を指差した。
「ん?何だ?」
彼が向こうを見た隙に、その場を離れる。
「って、オイ!どこへ行く!」
あなたの、居ないところへ。
数日前、街で見かけたあなたを、好きになっただなんて。 誰に言えようか。
…………あなたは真選組の副長で、私は攘夷志士なのに。
誰にも言えないこと
(誰にも、言ってはいけないのだ)