私の好きなひとは、とても不器用だ。











「泰衡様って、いつも仏頂面よねぇ」

「本当ね。それに比べて銀様はいつも素敵よねぇ〜」



平泉の町を歩いていると、ときどきこういった会話を耳にする。
だけど、私はそれが嫌でたまらない。





「今の、民の会話がご不満ですか?」



隣にいる男性が私に声を掛ける。
彼は、先ほど会話の渦中に居た“銀”その人だ。
嫌でたまらない、というのが表情に出ていたのだろう。
彼は、私にそう問いかけてきた。










「…………ええ、不満です」

「やはりそうでしたか」



眉間にしわを寄せていらっしゃいますよ。
銀は、そう続けた。





「…………みんな、あのひとの優しさを知らないだけなのです」

「ええ、私もそう思います」





私の好きなひとは、とても不器用だ。
だから自分がどれだけ平泉を大切に想っているのか
それを周りに上手く伝えることが出来ていない。
本当は、誰よりもその想いが強いはずなのに。 誰よりも誤解されているのではないか。











私は、いつもそう考える。





「もっと、民と話をしてくださいと、再三申し上げてはいるのですが」

「そうですか……」



そんなことは必要ないと、いつも言い捨てられてしまう。





「あのひとが平気でも、私は耐えられません。  
 誰よりも優しいあのひとが、誤解されたままだなんて」



余計なお世話だと怒られたって構わない。
あのひとの優しさを、民に伝えることが出来るのならば。















「…………泰衡様にとっては、あなたがそう思っていらっしゃるだけで充分なのでしょう」



銀は笑みを浮かべて、そう言った。
そんなこと、あのひとの口から聞いたことは無いけれど、
そうだといいな、なんて子どものようにただ願っていた。








































幼き願い





(少しでも私が あなたの支えになっているのならば)