「…………」
お昼に休憩していたあたしは、
なんとなく一人になりたくて、隊舎から少し離れた場所に居た。
ここは緑も多くて風が気持ちいいから、なんとなく心も休まる。
『恋次、放して!
行かなきゃ……ここで助けなきゃ、殺される!』
『今行けば、お前まで殺されるだろ!』
『嫌だ!放して!
あたしは、失いたくない……!!』
一昨日の夜、突如尸魂界が大虚に襲撃された。
大虚がどこから入ってきたのか、何故出現したのか、その理由は全く解らない。
だけど、あたしにとって重要なのはそんなことじゃない。
その大虚によって、大切な人を失ってしまったこと……
それが、今のあたしを支配しているのだった。
『ねぇねぇ、明日って非番?』
『うん、そうだよ』
『じゃあ、一緒に買い物しようよ!』
『いいね、行こう!』
あたしと彼女は、親友だったのだ。
周りに「仲が良すぎだ」と言われるほど、あたしたちはいつも一緒に居た気がする。
だけどその親友は、一昨日の襲撃により、大虚に殺されたのだ。
あたしはその場に居たのに、彼女を助けられなかった……。
『恋次、放して!
行かなきゃ……ここで助けなきゃ、殺される!』
『今行けば、お前まで殺されるだろ!』
『嫌だ!放して!
あたしは、失いたくない……!!』
あたしは、彼女を失いたくない……
この世界でできた、大切な友だちだから…………!
……結局、恋次はあたしを放してはくれなかった。
恋次は、あたしを守った。
だけどあたしは、彼女を守れなかった…………。
「どうして、あたしはいつも……」
何も、守れない…………。
同時期に十三番隊に配属されたルキア……
彼女が捕らわれたときも、あたしは大して何も出来なかった。
恋次や黒崎さんたちのように、もっと、何か出来たはずなのに……。
「あたしは、何をしてるんだろう……」
恋次たちと共に学んで、必死にここまで来たのに。
刀も握れなかったあの頃と、何か変わっているのだろうか。
「あたしは、どうして…………」
どうして此処に居るのだろうか…………
「こんな所に居たのかよ」
声のした方を見ると、そこには恋次が立っていた。
「恋次……」
……何か、言わなくては。このままでは気まずい。
そうも思ったけれど、結局何も言葉は出てこない。
「…………お前、俺のこと怒ってるか?」
「え?」
「一昨日……お前を、止めただろ」
「あ、……」
そうだった。
彼女を助けようとしたあたしを、恋次は止めたのだった。
『今行けば、お前まで殺されるだろ!』
きっと、恋次はあのとき悟ったのだ。
あたしでは、あの大虚には敵わないと。
「あたしは……恋次のことを、怒ってるわけじゃない」
むしろ……
「むしろ、自分に腹が立つよ」
「自分に?」
「そう」
あたしがもっと、強かったならば。
彼女を助けられるほどの力を、持っていたならば。
彼女を、助けることが出来たかもしれないのに……。
後悔ばかりしていたって、進めないのは解っている。
だけど、今はただ、それを思うだけだった。
「…………悪いな」
あたしは、恋次のこと怒ってなんていないのに。
そう、言ったはずなのに。
少し間を空けて、恋次はそんなことを口にした。
「お前にとってあいつが大切であるように、俺にとってお前は大切なんだ」
死なせるわけには、いかなかった。
恋次は、つらそうにそう言った。
「お前が此処に居ること、お前がやってることは無駄じゃねぇ。
だから……変なことは考えるなよ」
「恋次……」
「俺には、お前が必要だからな」
居なくなったら、困るんだ。
恋次は、最後に少し笑ってそう言ってくれた。
ああ、どうしていつも
(あたしは君に、生かされている)