『…………お前、ここで何をしてる』




その男と会ったのは、私が思想を異にする攘夷団体に襲われていたとき。
私自身も攘夷志士だが、思想の違いから恨まれ、襲われることも多々あった。





その夜も、例に漏れず私は別の攘夷団体に襲われていた。
敵は私を本気で葬る気でいたらしく、数を揃えてやって来た。



だけど、相手は十人。うまくやれば勝てない数ではない。
九人目まで難なく倒したとき……私は最後の一人の姿を見失った。





やられると思ったとき、私を助ける形で現れたのが、その男だった。
男の名前は土方十四郎――真選組の副長だった。



……彼は私のことを知らないだろうが、私は知っている。
襲われた日の数日前、偶然街で見かけたのだ。















『オイ、兄ちゃん、真選組だろ!?』

『あ?そうだが、それがどうしたんだ』

『ちょっとオレに剣術を教えてくれよ!』

『なんでお前なんかに教えなきゃなんねェんだよ』




どうやら、その子どもは武士に憧れているようだった。
廃刀令の出ているこの時代で、武士に憧れるだなんて
その子どもも変わっているとは思った。



彼も面倒そうにしていたが、結局その子どもに剣を教えていたのだ。















『意外と、面倒見がいいのか……』



真選組の副長については、少なからず情報を得ていた。
冷徹な判断を下す、真選組の頭脳だと。
だからなのか、普段から冷たい人間なのだと思っていた。





だけど、子どもに剣を教えるその姿は、何だか微笑ましくて。
私まで笑ってしまいそうだったのを、こらえていた記憶がある。



















「そのときだったんだ……」



私が、土方十四郎という男を好きになったのは。





初めは気付かなかった。
けれど、ふとした瞬間いつも彼のことを考えるようになって。
自分の気持ちも、そのうち解っていった。















『こいつら、攘夷志士だろ。
 お前、なんでこいつらとやりあっていた?』




まさか、こんな形で対峙する日が来るだなんて。
私は想像もしていなかったのに。










『私は攘夷志士だ、だからこんな想いは捨てなくては……』



何度も捨てようとしたのに。
捨てることが、出来なかったのだ…………。





















「一人で私に挑もうだなんて、百年早いよ」



――その夜、先日十人で挑んできた奴らの仲間が、私を襲ってきた。
だが、そいつは単身で乗り込んできたため、私が負けるはずもなかったのだ。










「…………帰るか」



私が拠点に戻るため、歩き出そうとしたとき。















「お前、こないだ攘夷志士とやりあってた奴だな。何者だ?」



後ろから、声が聞こえた。
……間違いなく、彼の声だ。















「…………あなたには、関係のないこと」

「そうもいかねェ。こっちも攘夷志士を取り締まってるんでな」



それは、そうだ。
私は何だか、おかしくなってしまった。










「なに笑ってやがる」

「何も」



私の笑い声は、彼にも届いてしまったようだ。
少し不機嫌になっていた。















「真選組の副長殿……私は、何者に見える?」

「…………攘夷志士に襲われた町道場の娘、か?」



どうやら、私が偶然攘夷志士に襲われたと思っているようだ。
倒すことが出来たのは、道場で剣を習ったからと言いたいのか。










「……あなたには、私が攘夷志士だという考えはないのか」

「何?」



やはり、あなたはそういう人なのだ。
そんなあなたに、私は惹かれている…………















「さようなら、副長殿。
 優しすぎることが、いつか仇にならぬように」

「オイ、待て!」



彼が私を追いかける前に、私は煙幕を使ってその場を後にした。










「あの状況で、私を疑わないだなんて」



優しいのではなく、ただ甘いだけか。



















「…………まぁ、どちらでもいい」



私はやはり、あなたのことが好きだと解ってしまったから。
あなたには、これ以上深入りしたくない。








しては、いけないのだ。





















誰にも言えない想い





(伝えられる日など、来るはずもないのだ)