「ちょっと、近くを散歩してくるね」
私はそれだけを告げて、宿を出てきた。
一人では危険だと八戒や悟浄は言ったけれど、
それも押しやって飛び出してきたのだ。
今回私たちが泊まっているのは、少し殺風景な街。
街自体は、かなり栄えている。
けれど、その周りの森林が枯れてしまっていた。
今この世界に起きていることが、
こういうところにも影響を与えているのかな。
私はそんなことを考えた。
私が住んでいた町は、ある日突然妖怪に襲われてしまった。
初めはお互いを尊重し合って暮らしていたのに、
その均衡も、あの事件により崩れてしまった。
私は父の言いつけで物置に隠れていた。
ここならば、きっと見つからないだろうから、と。
父の思惑通り妖怪に見つかることはなかったが、
私が隠れている間、町の人は皆殺しにされていた。
……そう、私を物置に隠した父でさえも。
私は、もう何も考えられなかった。
家族も友人も、住む場所も一気に失くしたのだ。
ここは自分の故郷であるはずなのに、路頭に迷っているのと同じであった。
『何があったんですか?』
最初に声を掛けてくれたのは、八戒だったかな。
後で聞いてみたところ、みんなは偶然私の町に立ち寄ったらしい。
だけど、ぼろぼろになった町を見て、何かあったと悟ってくれたんだろう。
ただ一人生き残った私に、事情を聞いてきたのだ。
……けれど、私だって詳しいことは解らない。
本当に突然だった。突然妖怪に襲われたのだ。
それ以外のことは、何も解らない…………。
『ついてこい』
行くところがないと言った私に、そう言ったのは三蔵だ。
見た目では、一番怖そうだと思ったその人は、
何の説明もなくただ「ついてこい」と言った。
それから、私は彼らと一緒に旅をすることになった。
正直、何の力も持たない私が一緒に居ては足手まといだ。
だけど、みんなそれについては何も言わない。
それどころか、とっても優しくしてくれる。
『これ、食うか?』
悟空は、ほとんどが食べ物の話だった。
でもそれもちょっとおかしくて、私は笑ってしまう。
『そんなんより、俺とイイコトしない?』
おそらく冗談なんだろうけれど、悟浄はいつもそんなことばかり言う。
適当にあしらっておくのが吉、と、八戒に教わったこともあった。
『ああ、もうすぐ次の町に着きますよ。
必要なものがあれば、一緒に買い出しに行きましょうね』
私にとってお兄さんのような存在であるのが、八戒。
何だかんだで、いつも私の面倒を見てくれている。
『チッ……うるせぇんだよ、猿』
終始不機嫌な三蔵。
あまり愛想もないけれど、私はそんな三蔵の言葉に救われている……
『ついてこい』
あのとき、そう言ってもらえたから。
私は路頭に迷わずに済んだ。
あのとき、そう言ってもらえたから。
私は「仲間」といえる存在と出会えた。
私は、あなたに感謝しているよ。
そして、私を救う言葉をくれるあなたが、好きなんだ…………
「おい、何してんだ」
気付くと、いつの間にか隣には三蔵の姿があった。
今まで考え事に集中していたためか、全く気配を感じなかった。
「勝手に街から出やがって……
妖怪に襲われたら面倒なんだよ。考えて行動しろ」
「あ、うん、ごめんなさい……」
こういう言い方しかしないけれど、私は解っている。
これは、心配してくれているのだ。
だから私も素直に謝った。
「……戻るぞ。ついてこい」
「…………うん!」
いつだって前を行くあなた。
私は、いつもその背中を追っている。
いつだって前を行くあなた
(これからも きっとその背中を追いかける私)