「那岐、見て!」


そう言いながら、昼寝をしている(正しくは、しようとしていた)僕のところへ
何かを手にしたその人がやって来た。







「……どうかした、さん」


その人――さんは、僕がめんどうくさそうな顔をしていることに
気づいていないはずはない。

けど、おそらく……気づかないフリをして、僕の問いに答える。







「あのさ、そろそろ向こうで言うお正月でしょ?」

「まあ……そうだね」

「だから、年賀状を書いてみたんだ」


嬉しそうにしながら、手にしていたものを見せてきた。
さっき持ってきたのは、どうやらその年賀状らしい。










「年賀状って……
 文句つけるつもりはないけど、ここにはポストも郵便局も無いよ?」


年賀状を書くのは構わないけれど、それを配達してくれる人は居ない。

大切な手紙なんかだったら、橿原で働いてる人に頼めるだろうけど
まさかそういう人に年賀状の配達を頼むわけにもいかないと思うんだけど…。







「そっか、そうだよね……
 大切な文なら、まだしもね」


さんも同じことを思ったのか、少し考える仕草を見せる。















「……うん、解った!
 それじゃ、自分で届けてくる」

「は?自分で?」

「うん」


どうせ今日は一日空いてるし、と、なんでもない風に言う。
けど、僕は少し戸惑った。何故なら、それは……







「それを全部……自分で届けるの?」


……それは、その年賀状の量が原因だった。
実際に手にとって数えたわけじゃないから解らないけど、
明らかに「ほんの数枚」という感じではない。










「うん、そうだけど……何か問題?」

「いや、問題っていうか……」


無謀だと思う、とは口にしないでおいた。
でも、表情には出ていたかもしれない。







「大丈夫だよ、心配しなくても。
 ほとんど近場に居る人たちだし」

「その『ほとんど』っていうのが引っかかるんだけど…」

「あーうん、まあ……常世にも行くし」


やっぱり、そうだと思った。
きっとアシュヴィンたちにも年賀状を書いたんだ。

……この人の考えそうなことだ、予想くらいはつく。















「……常世まで行くなら、急がないと全部届けきれないよ」


僕は立ち上がり、さんにそう言って歩き出した。
けど、肝心のさんは、ぽかんとしたまま動かない。







「どうしたの?」


急がないとって言ってるそばから、どうして立ち止まってるんだ。
そんな思いを含めて問いかけると、はっと我に返ったその人が言う。










「ご、ごめん、あの……
 ついてきて……くれるの?」

「…………そうだよ」


まさか、一人で常世に行かせるわけにいかないしね。
アシュヴィンなんか特に、さんのこと気に入ってるし……。










「そっか、……ありがとう、那岐!」

「別に……ただ暇だからだよ」


素っ気なく返したのに、さんはずっと笑顔だった。
きっと、僕の心の声を、なんとなく読み取っているのかもしれない。










「それじゃ、行こう!」


僕の手を取り、一緒に歩き出した。


































「やっぱり最初は、我らが陛下のところだよね!」


そう言いながら、千尋がいつも執務室として使っている部屋の前に立つ。

……今ではさんもそれなりの位を持っているんだから、
一声掛けて堂々と入ればいいのに。

入口から中をこっそり覗く姿を見て、そんなことを考えた。










「あれ? さんに……那岐?」


先に千尋が気づいたらしく、作業の手をいったん止めてこちらにやって来た。















「忙しいところごめんね、千尋」

「ううん、別に大丈夫ですよ。
 それより、今日は一日お休みだったはずでしょう?」


何かあったんですか、という千尋に、さんは例の年賀状を差し出す。







「これね、年賀状…久しぶりに、書いてみたんだ」

「わあ……」


確かに、向こうに居たときは毎年書いてましたよね。
千尋は懐かしそうにしながらそう言った。










「千尋にも書いてみたんだ、だからどうぞ」

「ありがとうございます、さん!」


本当に嬉しそうに、千尋はその年賀状を受け取った。







「作業中断させちゃってごめん。
 じゃああたし、他の人にもこれ届けるから行くね」

「はい、気を付けてくださいね」

「大丈夫だよ、那岐がついててくれるから」


その言葉を受けて、千尋は一度僕のほうに視線をよこした。
そして微かに微笑んでから、さんのほうに向き直る。















「そうですね、那岐がついてれば心配ないですね」


なんだよ、もう……
千尋に全部見透かされてる気がしてなんか悔しいな。

少し不満に思いながら、千尋のもとを後にするさんの後に続いた。



































「えーっと…
 橿原に居る人たちには、だいたい渡せたかなぁ」


千尋の執務室をあとにしたさんは、あれから風早、忍人、布都彦、柊、遠夜…
仲良くなった女官たちなんかに年賀状を配ってまわった。
(遠夜は千尋に用があって、たまたま橿原に来ていたらしい)


当たり前だけどほとんどの人は年賀状を知らないから、
渡すたびに説明してまわるといったものすごく面倒なことになってたんだけど……








「あとは、これとこれを渡してから……」


当のさんはずっと楽しそうにしていたから、余計なことは言わないでおいた。















「あとは誰に渡すの?」

「宮に居る人は、今ので全部!
 次に近い場所で言うとサザキとカリガネかな」


サザキとカリガネって……まさか阿蘇山に行くってこと?

そんな思いがまた顔に出ていたらしく、さんは大丈夫と言って笑った。







「大丈夫って、何が……」


僕がそうつぶやいたとき、その人は大きく息を吸い込み、
そして空に向かって叫んだ。










「サザキーー!! カリガネーー!!」


すると、どこからともなく呼ばれた二人が姿を現した。















「よー、!」

「久しぶりだな」


って、なんで呼んだだけで普通に出てくるんだよ……。







「あのね、サザキとカリガネに用があるときは、
 宮の外に出て叫べば来てくれるんだ」


何それ?…意味解んないんだけど。







「他でもないからの用だったら、オレたちはすぐに飛んでくるぜ!」

「すぐに、かは解らないが、出来るだけ早く来るようにはしている」


……前から思ってたけど、この二人ってさんに甘いよね。















「那岐だってそうだろ?」

「は?」


サザキの言葉の意味が解らず、僕は聞き返す。







に何かあったら、すぐ飛んでくだろ?」

「なっ…何言ってるんだよ、全く」


そんなの……当然じゃないか。

そう思ったけど、その言葉は口にしなかった。















「はい、サザキにも年賀状!」


既にカリガネに年賀状を渡し終えていたらしいさんが、
サザキにもそれを差し出してきた。







「ありがとな、
 ところで『ねんがじょう』って何だ?」

「うん、それは……」


そしてさっきから繰り返される年賀状談義が再び始まり、
一通り聞き終えたサザキとカリガネは、お礼を言ってからまたどこかへ飛び立っていった。















「……那岐? どうかした?」

「…………別に、なんでもないよ」


サザキにまで見透かされているなんて、僕もどうかしてる。
全く…これもさんのせいだよ。







「……あとは誰に渡すの?」

「うん、あとは常世組!」

「ふーん……」


一番厄介なところか……。

面倒だけど、この人をひとりで向かわせるわけにはいかない。
そう思いながら、僕は常世へ続く洞窟に足を向けた。










「ちょ、待ってよ、那岐!」


さんも、慌てて僕の後に続いた。



































「わざわざありがとな、

「ううん、あたしが渡したかっただけだから」


アシュヴィンを始め常世の人たちに年賀状を渡し終えたさんは、
あまり長居することなく橿原に戻ると言った。







「だが、もう帰るなんて慌ただしくないか?
 なんなら、泊まっていっても構わないが」


そんなアシュヴィンの言葉に、さんは首を振る。










「嬉しい提案だけど……やっぱり、中つ国に居たほうが
 なんてゆうか落ち着くんだ。常世も好きなんだけど……」


それに、明日からはまた、仕事頑張らないといけないから。















「……そうか。
 お前のようなやつに想われて、中つ国は幸せだな」


そんなアシュヴィンの言葉に、さんは照れながら笑みを浮かべる。







「気を付けて帰れよ」

「ありがとう。
 でも大丈夫だよ、那岐が一緒だから」


さんの言葉を受けて、アシュヴィンは一度視線をこちらによこす。
そして微かに笑ってから、またさんに向き直った。

……それがなんだか、さっきの千尋の仕草と重なって見えた。










「……そうか、そうだったな」


きっとアシュヴィンにも見透かされているんだろうけど、
なるべく気にしないようにして常世を後にした。



































「今日はありがとね、那岐」


中つ国に戻る道中、ふとさんがそんなことを口にした。







「別に……ただ暇だったからだよ。さっきも言っただろ」


本当は心配だったなんて、口が裂けても言えない。










「それでも、……ありがとう」


だけど、この人はまた僕の心の声を読み取ったらしい。
満面の笑みで、もう一度お礼を言った。






































あながそういう人だから、





(僕は守りたいんだ。ずっと、この手で。)





















































          ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

            テーマ「年賀状」を遙か4の那岐でお送りしてみました!いかがでしたか?
            那岐もかなり好きなんですよね…
            てか、結局、シリーズ通して地の朱雀はみんな好きとゆう。(何

            宮田幸季さんの、那岐の演技がツボすぎますよ。まじで。
            あーゆー声のトーンまじ好きなんですよ!!
            しかもツンデレだしね、那岐。かわいい。好きだ!(結局

            てか、何気に那岐も初書きだったんですね。知らなかった(オイ
            今回の那岐は、みんなにいろいろバレバレで可愛いと思います(笑)
            また挑戦したいですね!




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