「風早!那岐!」
「早く来ないと置いてっちゃうよ!」
向こうの方で、二人の少女が俺と那岐を呼んでいる。
一人は異世界の国の姫、そしてもう一人は……その異世界で兵の一人として戦っていた剣士。
「……別に、僕はどうしても行きたいなんて言ってないんだけど」
急かす二人の方を見て、隣に居た那岐がそうつぶやいた。
けれど、そんなことを言っていても、案外まんざらでもないように見える。
「何だかんだ言いながらも、那岐は二人には甘いですよね」
「う、うるさいな」
俺が指摘すると、少し罰が悪いようにそう答えた。
「ほら、二人が待っていますよ。急ぎましょう」
「…………仕方ないね」
やっぱり、結局那岐は二人に甘いんですね。
「神社に着いたら、まずお参りだよね!」
「もちろんです、さん!
その後は、おみくじ引きましょうね」
「いいね!あとお守りも買いたいな〜」
今日の初詣について、二人は楽しそうに話している。
「風早と那岐もおみくじ引くでしょ?」
「僕はいいよ、めんどくさいし」
「なんでー?那岐みたいな人が大凶引いたら、すごく面白いのに」
「……さん、怒るよ」
冗談だよ、とは笑った。
「那岐も大吉引けるといいね」
「だから、僕は引かないって」
「ダメ、那岐もおみくじ引くの!」
「なんでだよ……」
あまり他人に流されない那岐も、二対一では分が悪いようだ。
それに、やっぱり二人には甘いから。
はっきり嫌と言うことも出来ない。
「いいからほら、行こう!」
そう言った千尋が、那岐を引っ張ってどんどん足を速める。
「おい、千尋……!」
「絶対おみじく引かせてやるんだからね!」
「千尋、何だか意地になっちゃってるね」
おかしそうに笑って、が言った。
「ええ……でも、結局那岐は千尋には敵いませんよ」
「確かに」
は、また笑った。
――このという少女は、普段からよく笑う。
つらいことだってあるはずなのに、泣いているところを見たことがない。
いつも、笑っているような気さえする。
だからなのか。
の隣に居ると、安らげるのは。
本当は、俺が守って支えてあげなければと思うのに。
いつも俺が支えられている……。
そんなことを考えていたとき、何か手にぬくもりを感じた。
「千尋が呼んでるよ、風早。行こう」
変わらずの笑みを浮かべて、が言った。
「…………そうですね」
俺は、そのままに手を引かれて歩き出した。
「うわー、すごい人!」
「けっこう朝早くに来たのに、いっぱいですね」
神社に着くと、既にそこは参拝客で溢れていた。
その人の多さに、感嘆の声を上げると千尋。
「よし、まずはお参りだね!」
「はい、さん!」
「冗談だろ?あの行列に並ぶのか……?」
「「大真面目!!」」
そんな息ぴったりの二人に引きずられ、那岐も列に並んだ。
けれど、順番は思ったより早くに回ってきた。
「まず、お賽銭を投げる」
「はい」
「次に鐘を鳴らす」
「はい」
作法通り真剣にお参りをする二人が、なんだか微笑ましかった。
鐘を鳴らした二人は、二礼二拍をして祈り始める。
俺も、二人に倣うようにして目を閉じた。
――俺が願うのは。
大切な人たちが、いつまでも心から笑えていること。
そして……
出来れば、あの世界にはもう関わらないでほしい。
あの世界に戻れば、大変であろうことは目に見えている。
千尋は姫としての役を背負わされるだろうし、
そうなれば、も那岐もきっと戦うことを選ぶだろう。
それは、避けたい…………。
「風早、お祈り終わった?」
ずっと目を閉じていた俺に、が声を掛けた。
「あ、はい……終わりましたよ」
そんな彼女に、俺は慌てて返事をする。
「じゃ、移動しよっか」
どうやら、千尋と那岐は既に列から抜けていたようだ。
二人のもとへ向かおうとしたが、再び俺の手を引いた。
「の手は……やっぱり温かいですね…………」
「え、何?どうかした?」
つぶやくように口にした言葉は、やはりには届いていない。
だから、聞き返してきたのだろう。
「…………何でもありませんよ」
「そう?」
けれど、俺は曖昧に答える。
そんな俺の答えに不思議そうにしているだったが、それ以上は追及してこなかった。
「次はおみくじですね!」
「うん!」
ここに来るまでに話していた通り、千尋が那岐にもおみくじを引かせていた。
と俺も、続いておみくじを引く。
「うーん、中吉かぁ……けっこういい方だよね」
「中吉なら上の方だろ」
「那岐は?」
「吉だよ」
「まあまあだね」
そのまま、おみくじに書いてあることについて話す千尋と那岐。
おみくじで一喜一憂するところもまた、微笑ましく思えた。
「ねぇ、風早」
「はい」
二人とは少し離れている場所で、が俺を呼ぶ。
その声色がいつもと違ったから、返事だけをして次の言葉を待った。
「あたし、思うんだ。
あの世界には、二度と行かない方がいいかもしれないけれど……
やっぱり、千尋は行かなきゃいけないんだろうって」
「……」
俺は、思わず目を見開いてしまった。
が唐突にその話をしてきたからじゃない。
……が、俺と全く同じことを考えていたから。
「ううん、千尋だけじゃない……
那岐も風早も、あたしでさえもきっといつか戻らなきゃならない。
別に根拠なんてないけれど、なんとなくそう思うんだよ」
そう言ったの瞳には、ここではない場所……
あの世界が映っているように見えた。
「そのとき、あたしは……きっと、戦うことを選ぶ。
千尋が姫として立たなければならなくなったら、あたしは共に戦う」
……ああ、やっぱり。
は、俺の思った通りの行動をしますね。
「風早は止めたいかもしれない。
でも、あたしはやっぱり戦いを選ぶよ」
言葉はそこで途切れたけれど、
だから止めないでほしい、と言っているようだった。
「、俺は……千尋にも那岐にも、もちろん君にも傷ついてほしくはないんです。
それだけは覚えていてください」
きっと、止めても無駄なことは解りきっているから。
だから俺は、そう言った。
「うん……大丈夫、忘れないよ」
――ああ、やっと笑顔を見せてくれましたね。
俺がそう思っていると、は自分が引いたおみくじを見せて言った。
「神はあたしの上に在る。だから、何も心配いらないよ」
そのおみくじには、「大吉」と書かれていた。
きっと、君ならば
(明るい未来を 切り拓いてゆけるだろう)
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お年賀企画の第4弾です!いかがだったでしょうか?
こちらはリクではないのですが、
千夜が勝手に書きたいキャラで書きました。(オイ
風早はたぶん、4でも上位に入っています。
てか2番目に好き。1番は忍人。
なんか、和彦さんの「回想の〜」のキャラソンが好きで。
それの影響もあるけれど、まあ、いいよね。EDが。
全員が幸せなんて終わり方、納得いかない人もいるだろうけれど。
あたしはやっぱり、それが好きなんですよね。
誰にも泣かないでほしいってゆうか……うん。
風早が好きだ!同門も好きだ!(何
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!!
Created by DreamEditor