〜一番右の扉〜
蘭、幸鷹、リズヴァーンは、それぞれ別の部屋に入っていった。
だが、遠夜とアシュヴィンは、揃って一番右の扉を開くよう言われ、
その扉を開けてみると……そこは、見覚えのある場所だった。
「なんだ、常世の国じゃないか」
そう、そこはなんと、アシュヴィンの住む常世の国だったのだ。
「扉を開けた先に、常世の国とはな。その構造が知りたいものだが」
冗談交じりに、アシュヴィンがそんなことを言った。
「……さて、これからどうするかだな」
『…………こちらだ』
「ん?」
声こそ聞こえないが、遠夜が向こうの方を指差したため、
アシュヴィンも何かと思い、その先を見る。
「何も見えないが」
『が、居る』
「……解った、とにかく行ってみればいいんだろ?」
やはり、微妙に会話は噛み合っていない。
しかしながら、幼少の頃から既に知り合いだったためか、
アシュヴィンは遠夜の意図を何となく汲み取れていたのだ。
とりあえず、遠夜の示す方に向かうことにした。
遠夜の示す道を進み、木々が生い茂っている場所までやって来た。
常世にある森の一つである。
『その、大きな木の向こうに』
「この先か?」
二人が、その大きな木を通り過ぎると、
その先には見覚えのある人物……の姿があった。
「よう、お姫様。こんな人気のない森で何してんだ?」
「あなたには関係ない」
「もったいぶってないで教えてくれって」
そこには、だけでなく何とも柄の悪そうな男が二人ほど居た。
「こんな所に居るんだ、どうせ暇なんだろ。俺らに付き合ってくれよ」
「暇じゃない。
だから、あなたたちに付き合う時間も持ち合わせてはいない」
「どうだかなぁ〜。
まっ、いいじゃねぇか、一緒に来いよ」
が断っているのにも関わらず、執拗に絡んでくる男たち。
が常世の姫と知っての行動であるようだが。
「ほら、来いよ!」
「離して!」
「そこまでにしてもらおうか」
『は、嫌がってる。
それ以上やると、俺も容赦はしない』
間一髪のところで颯爽と現れた遠夜とアシュヴィン。
そんな二人の登場に、驚きを隠せないでいる。
「姫つきの奴らか……ちっ、ここは引くぞ」
「そうだな」
意外にも、男たちは諦めてさっさと立ち去っていった。
『、怪我は無い?』
「あ、うん……大丈夫。ありがとう、遠夜」
遠夜の声は、にも聞こえていない。
それにも関わらず、何故かは、いつも遠夜との会話を成立させていた。
「全く、お前らしくないじゃないか」
「あ……申し訳ありません、アシュヴィン様」
「おいおい、今は俺がお前についていると聞いたぞ。
俺に様を付けてどうする」
アシュヴィンが、おかしそうに笑った。
「で、ですが……」
元々アシュヴィンに仕える立場に居るは、
彼を呼び捨てにするなど、なんとなく居心地が悪い。
『、気にしなくていい。
これは、指令だから。アシュヴィンも、解っている』
「だけど、遠夜……本当にいいの?」
『大丈夫だ。アシュヴィンは、それくらいでは怒らない』
確かに、アシュヴィンは小さなことでは怒らない印象ではあるが。
は遠夜の発言に賛同しつつも、やはり躊躇っていた。
「遠夜はなんて言ってるんだ?」
「アシュヴィン様は、それくらいでは怒らないって……」
「はは、全くその通りだ」
本人が怒らないというのだから、そうなのだろう。
は、しぶしぶアシュヴィンを呼び捨てにすることにした。
「え、ええと……改めて。
助けてくれてありがとう、遠夜、アシュヴィン」
『が無事で良かった』
「あまり心配をかけるなよ」
「はい、ごめんなさい」
しかしながら、アシュヴィンには一つ疑問があった。
「どうして、こんな人気のない場所に居たんだ?」
常世の姫が、供も付けないで外を出歩くなんて、
危険極まりない行動である。
そう思ったアシュヴィンは、に問いかけた。
「そ、それが……」
『何かあったのか?』
「ううん……ただ、遠夜とアシュヴィンが、最近働き詰めだったから。
だから、森の中でどこかゆっくり出来る場所はないかと探しに」
なんと、が危険を冒してこの場所まで来ていたのは、自分たちのためだったのか。
それが解った二人は、不覚にも少し笑ってしまったのだった。
「な、何故笑うの?」
「お前がお前だからだよ。なあ、遠夜」
『ああ。俺も、同じ』
二人の言葉がよく解らないは、少しぽかんとしていた。
「さて、もう日も暮れてくる。今日のところは、帰るぞ」
「え、で、でも……」
まだ、ゆっくり出来る場所を見つけていないのに。
がそう言いたいのだと解った遠夜は、彼女の右手を取って言う。
『俺たちは、が居ればそれでいい。夜は冷える。帰ろう』
「え、あ、うん」
よく解らないけれど、二人がそれでいいのなら、いいか。
は、そう思うことにした。
「この辺りは、歩きにくい道が続くからな。
空いている左手は、俺が預かろう」
遠夜に続き、アシュヴィンがの手を握った。
「帰るぞ」
『帰ろう』
「はい!」
二人の呼びかけに、は元気よく答えた。
そうして三人は、手を繋いで仲良く帰っていったのであった。
一月生まれへの指令:執事やメイドになりきれ
(執事というのは、これでいいのか?)
(が笑ってるから、いいと思う)
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遙か十周年記念企画、一月の遠夜&アシュヴィンVer.でした!
いかがでしたか?
一月生まれが意外に多くて、二人は4だし……ということで
まとめてしまいました。
どうしようかと思ったけど、二人って接点ありますよね。実は。
なので、そんな二人の絡みが書けて楽しかったです。
遠夜の言葉を、アシュヴィンが何となく理解していればいい。
ちょっとした兄弟のような仲であるといいですね^^
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
人数が多いので短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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