扉を開けた二人は、見覚えのない場所に立っていた。
だが、ここがどういった場所なのか見当くらいはつく。
「ここは神子の世界、なんでしょうか?」
弟の問いかけに対し、隣に居た兄――北斗星君は間を空けて答える。
「…………おそらくは、そうだろう」
問いかけた弟――南斗星君は、兄の答えを聞いたのち辺りを見回す。
「と、いうことは……彼女もここに居る、ってことですかねぇ」
先ほどとは違い、兄は黙ったまま。
だが、その沈黙は肯定を表しているのと同じだった。
「まさか僕たちが彼女の世界に来てしまうなんて、予想外ですね」
そう言いつつも、弟はどこか楽しそうだ。
そして、何か思いついたような顔をする。
「どうやら彼女は、この近くに居るみたいですね。
せっかくだから行ってみましょうよ、兄上」
それに、彼女に会ってこいというのが指令だったはず。
どのみち会っていかなければ、天界に戻ることは出来ないだろう。
「…………ああ、ならば行くとしよう」
辺りの様子からして、随分と夜も更けている。
こんな刻限に訪ねるなど、と思った兄であったが、弟の言い分もしかり。
結局は彼女に会わなければ、自分たちは帰ることが出来ない。
ならば、会っていくしかないのである。
「それに……」
それに本当は、他でもない自分が彼女に会いたいと思っているのだから――……
「……あっ、あれじゃないですか?
おーい! 牡丹の姫ー!」
滞在していた邸の庭先で、ひとり佇んでいた彼女。
少し離れたところから弟が声を掛けると、至極驚いた顔をした。
「南斗様! 北斗様まで……!?」
その後は言葉にはしなかったが、「どうして」と言いたげな顔をしている。
「久しいな、牡丹の姫」
「あ、は、はい……お久しぶり、です」
今でこそ和解しているが、かつては対立した相手だ。
兄に対し、彼女はどう接したらいいか解らないようだった。
「そう、構えずともよい。
我とそなたは、既に相対する立場を解いた仲」
自然に接してくれて構わぬ、と、(兄にしては珍しく)微かに笑って言った。
「そうですよー、牡丹の姫〜。
兄上なんかに気を遣うことないですって」
「そなたは黙っていろ」
弟の言い方が気に障ったらしく、兄はそう言い放った。
そんな二人のやり取りを見て、彼女は笑みをこぼす。
「何か面白かったですか?」
「あ、いえ、違うんです。ただ……」
ただ、仲がいいなぁ、と思っただけ。
「…………そう思っているのは、そなただけだ」
「そうですよー、牡丹の姫!
僕たちが仲良しなわけないじゃないですか」
必死に反対する二人の姿がなんともそっくりで、
「やっぱり兄弟なんだなぁ」と彼女は実感した。
「えーと、あの……なんかすみません。
でも……今日、二人と会えて良かったです」
彼女は、心にかかっていた靄が晴れていくような心地だった。
「実は、その……ちょっと色々考え込んでいたんですけど」
二人と会えて、すごくすっきりした気がします。
彼女は、そう言って笑みを浮かべた。
「……あたしは、みんなと違って天界でのことをずっと覚えています」
それはきっと、元いた世界が関係しているんだろうけれど。
「だからあの約束も、忘れてはいません」
天界を去るときに交わした、あの約束。
『全てが終わったとき、また天界に来ます』
『そなたなら大歓迎だ』
『ええ、待っていますよ、牡丹の姫!』
「まだ全ては終わっていないけれど……
なんとなく、二人に会いたいと思ったんです」
そうしたら、その当人たちが現れた。
こんなに嬉しいことが、あっていいのだろうか。
彼女は、そう思っていた。
「もう一度、改めて約束します……
全てが終わったら、また天界に行きます」
そう言い切った彼女の瞳には、もう迷いは無かった。
「ああ……待っているぞ、牡丹の姫」
「待ち時間が長いと退屈ですから、なるべく早く来てくださいね!」
「はい」
二人の言葉に、彼女も笑って答えた。
追加メンバーへの指令:さんと会ってきて!
(そなたが迷わぬように、いつも見守っている) (でもあなたなら、きっと大丈夫ですよ)
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遙か十周年記念企画、追加メンバーの南斗様、北斗様Ver.でした!いかがでしたか?
実は夢浮橋もかなり好きなんですよね…あんま公表してないですが。
特に南斗様の声とキャラ設定(演技)が、千夜的にツボなんですよね。
あーゆーキャラ、好きだ!
今回もヒロインは連載にある「牡丹の姫」設定なんですが、
たぶん彼女はトリップしてきた身なので、天界でのこともずっと覚えているんじゃないかなぁ、
という思いで書きました。
だからときどき、ふっと会いたくなるとゆうか…ありそうじゃないですか。(何
でも昼間にあのビジュアルの人たちが出現したら騒ぎになりそうなので、あえて夜。(え
けど、まあ、夜でも目立ちそうですけどね、あの人たちなら。
とにかく最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
追加メンバー他にもいるので、よろしければご覧くださいませ。
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