「ここは……」


          扉を抜けたその人物は、とても見慣れた……
          それでいてとても久しぶりに見たその光景を、愛おしく思った。

          彼女が降り立ったのは、中つ国を治める女王陛下のおわす場所――橿原宮だった。


          見慣れているのは、彼女も幼き頃からこの場所で暮らしていたから。
          そして久しぶりに見たのは、彼女はもうこの場所に居られる存在ではなくなってしまったから……。















          「……ご無沙汰しております、一ノ姫様」


          どこか遠い景色を見るかのように宮を見回していた彼女――一ノ姫に、
          は声を掛けた。







          「久しぶりね、


          元気そうで安心したわ、と、一ノ姫は言う。















          「あの……本日は、何故こちらに……」


          本来ならば、彼女はもうここに留まることの出来ない存在。
          それなのに、一体どうしてここへ……?

          不思議に思ったは、少し迷いはしたものの単刀直入に聞いてみた。







          「あなたに、会いに来たのよ」


          問われた一ノ姫は、優しい笑みを浮かべながら言った。










          「私に、会いに……?」


          一体、どうして……。
          わざわざ「こちら」に来てまで会う理由が、一ノ姫様にはあったのだろうか。

          不安に思うの心情を読み取ったのか、
          少し困ったように笑って一ノ姫は言う。





          「心配しないで、
           別に、悪い理由で会いに来たわけではないのよ」


          それを聞いたは、やっと肩の力を抜いたようだ。
          ……少なくとも、一ノ姫にはそう見えた。















          「私はただ、……あなたの様子が気になっただけなの」

          「私の様子……ですか?」

          「ええ」


          先の戦いに身を投じ、力を尽くしてくれた……
          そして、二ノ姫。
          自分たちが成しえぬまま終わってしまったことを、
          結果的には二人に押し付ける形になってしまった。

          戦いの中で、二人ともたくさんの傷を負っただろう。
          体だけではなく、心にも……。







          「私たちがあのとき、あの場所で成しえていたら……
           あなたたちがこんなに傷つくことは、無かったわ」


          そもそも、二人はもともと敵同士の立場にあったのだ。
          それが仲間となり共に戦うことになるまで、それぞれ多くの葛藤もあったはず。

          二人がそんな状況だったとき、自分はそばに居てあげられなかった。
          助けて、あげられなかった……。


          一ノ姫は、それをとても悔やんでいた。















          「一ノ姫様……
           そのように、ご自分を責めたりなさらないでください」

          「けれど……」

          「あなたは『そばに居てあげられなかった』とおっしゃいましたが、
           そのようなことはございません」


          の言葉に、一ノ姫が不思議そうな顔をする。
          そんな彼女に対し、今度はが微笑みながら言葉を発する。







          「あなたは、ずっと私たちのことを見守ってくださいました。
           私たちは、その温かい眼差しに助けて頂いていたのです」


          は、あの最終決戦の日を思い出しながら話す。















          「あの最終決戦の日……
           自信に満ち溢れ敵に立ち向かおうとする二ノ姫様とは違い、
           私はひどく緊張していました」


          おそらく、二ノ姫様はそんな私にお気づきになったのでしょう。







         
 『……
           心配しなくても大丈夫よ。だって、……』


          だって、遙か遠く離れた場所から、姉様が見守ってくれているのだから。





         
 『一ノ姫様が……本当に……』


          そうつぶやいて二ノ姫様の方を見ると、
          先ほどと変わらない、自信に満ち溢れたお顔をなさって頷いてくださいました。

          だから私も、信じることが出来たのです。


          一ノ姫様が、我々をを見守ってくださっているということを……。












          「あなたは、その温かい眼差しで我々をずっと見守ってくださいました。
           そのことが、私にとっては、とても心強かったのです」


          そばに居ることが全てではないのだと……
          そのとき、二ノ姫様に教わった気がするのです。

          は、そう締めくくった。















          「…………」


          どうしてあなたは……
          どうして「あなたたち」は、そんなに強いのだろう。

          私がもう少し強ければ、あれにたった三人で立ち向かったりしなかったかもしれない。
          きちんと仲間を集め策を練り、万全の状態で挑んだかもしれない。


          ――の言葉を聞いて、一ノ姫はそう考えた。










          「結局私たちは……
          『言っても信じてくれないだろうから』と、逃げていたのかもしれないわね」


          結局は何もしなかったのと同じ。
          三人で挑んだ結果、自分は羽張彦と共に倒れ……
          柊の心に深い傷を残すこととなってしまった。





          「あれに立ち向かう前にもっと別の行動を起こしていれば、
           ……未来は変わったかもしれないわ」


          今となっては遅いけれど、と、苦笑しながら一ノ姫は言う。















          「……確かに、今ここで振り返ると、そう思えてしまうことかもしれませんが」


          けれど、そのときは違っていたはず。







          「そのときそれが最善の策と考え、あなた方は戦いを挑んだ。
           だとしたら……それが間違いだと、言い切れるでしょうか」


          一ノ姫様だけでなく……
          羽張彦殿や柊殿も、きっとご自分で考え導き出した結論だったはず。







          「あなたのご意見に流されるような、意志の持ち主ではないでしょう」


          あの二人のことですから、と、は続ける。










          「あなた方は、後ろを振り返ったりせず前だけを見つめ戦いに挑んだ」


          そして私たちは、ときどき気になって後ろを振り返ってみた。
          するとそこにはたくさんの仲間が居て、それを実感することにより
          皆で戦いに挑むことが出来た。









          「あなた方と私たちの違いなど、微々たるものなのです」


          どちらかが正しくて、どちらかが間違いということはない。

          どちらも正しいし、どちらも間違っている。
          私は、そう思います。




















          「……
           やっぱりあなたは、とても強いわね……」


          の言葉をただ黙って聞いていた一ノ姫は、そうつぶやいた。

          ……の様子が気になっていたというのは、本当だ。
          だけどそれは、ただ単に彼女のことが心配だったからではない。


          おそらく、自分は……
          「と二ノ姫に大役を押しつけてしまった」という自責の念から、
          彼女の様子が気になり心配していたのだろう。







          「私の、取りこし苦労だったみたいだわ」


          彼女は、とても強い。
          自分が心配するまでもなかった。

          もちろん彼女ひとりではそうもいかなかっただろうが、あいにく彼女はひとりではない。
          二ノ姫という大きな存在がそばに在り、仲間も大勢いる。


          そんな彼女には、「押し付けてしまった」という自分の思いも
          いい意味で通じていなかった。
          それが少しもどかしいような気もしたけれど、安心しているのも事実で。

          ――先ほどまで険しい表情をしていた一ノ姫は、自然と笑顔に戻っていた。















          「……ありがとう、
           今日はあなたと話せて良かったわ」

          「一ノ姫様……
           もったいなきお言葉です」


          こちらこそお話できてとても嬉しく思います、と、は言う。







          「――これからの中つ国を、頼みます」

          「はい……
           の名に懸けて、必ずやお役目を果たしてみせます」


          ――だからどうか、遙か遠く離れた場所から見守っていてください。


          その言葉に対し笑みを浮かべたまま頷いた一ノ姫は、
          そばに現れた扉を開け、戻っていった。



          遙か遠く離れた、あの場所へと――……
















































































追加メンバーへの指令:さんと会ってきて!






(ありがとう、。 私の大切な――よ……)


































































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            遙か十周年記念企画、追加メンバーの一ノ姫Ver.でした!いかがでしたか?
            もう十周年なんてとっくに過ぎてるぜ! ……というご指摘はナシの方向でお願いします。(え


            一ノ姫も実は好きなキャラなのですが、登場シーンが少なく残念に思っています。
            てか、羽張彦とどんな感じだったのか知りたいですよね!まじで!
            柊と三人で「会話している」シーンがほしかったです。(声つきで)

            個人的には腐れ縁の延長上のようだと思っています。(何
            布都彦ルートだと「歴史は繰り返される」みたいで好きなんですが。
            繰り返されるネタは大好物なんですが。(聞いてない


            とにかく、一ノ姫に関しては情報が少なすぎるので、ほぼ全て
            管理人の想像で書いてしまいました。
            なので、信じないでくださいね!(オイ

            でも、なんか、この人はきっとこう考えていたのかな……とかいろいろ想像するのは楽しいです。
            幻影Ver.のときもほぼ勝手な想像なのですが、考えるのは楽しかったです。

            誰だってそうだけど、何も考えないで行動してるわけないですしね。
            どんな馬鹿な奴(←管理人のこと)だって何かしら考えて行動してるはずだから。うん。

            機会があれば、二ノ姫も出演させて三人で会話したいですね^^
            
            とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
            宜しければ別Ner.もご覧くださいませ。

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