〜三つ目の扉〜
「……お待ちしておりました」
扉を開けてやって来た人物の前にが現れ、そう言った。
相手に壁を作る気がする、と言って普段から丁寧な口調を厭う彼女だが、
その人物の前では、いつもの彼女からは想像できないほど畏まっていた。
「……そのように気をはらずともよい」
「ですが、」
これは自分なりの礼儀だから、と、も譲らなかった。
そう言い切った彼女を見て、扉を抜けてきた彼――幻影は、微かに笑う。
「我は、そなたに感謝している」
「え……?」
いったい何のことで感謝されているのだろうか。
は疑問に思った。
それが真の目的だったわけではないが、とにかく、
最終的に「平家」という統制を崩そうとしたのだ。
憎まれる理由こそあれど、感謝されるいわれなど無い。
は、そう思ったのだが。
「あれらを……我が子らを、救ってくれたのはそなたであるゆえ」
「……!」
そう、なのだろうか。
確かに、望美ちゃんの協力もあって、知盛の死する運命を捻じ曲げ
重衡を呪縛から解き放った。
だけど、それは本当に感謝してもらえることなのだろうか。
ただ、自分がやりたいようにやってきただけなのに。
「そなたの、己が信念のために動くという強き意志……
それが、我が子らを救ってくれたのだと思っている」
「清盛殿……」
今の彼は、名も無き幻影のような存在。
だが、は、あえてその名を口にした。
「知盛や重衡だけでなく、将臣にも必要な言葉をかけてくれたな」
「……そうだったなら、いいんですが」
ただ自分の思ったことを、言っただけ。
それが本当に将臣くんに必要なことだったなら、いいんだけれど。
彼の言葉を聞きながら、はそう思っていた。
「そなたは自信を持ってよい。
そして、己がどれだけ、世界を大きく動かしているかを自覚すべきであろう」
ここから遙か遠い時空の先にあるあの世界も、今ここに在る神子の世界も。
そなたの力で、意志で、大きく動いている。
とても、良い方向に。
「そなたに、感謝している。礼を言うぞ」
「……勿体なきお言葉です」
そう言って、は頭を下げた。
「……あの、一つ聞きたいことがあるんです」
「ああ」
少し間を開けて、顔を上げたは彼にそう言った。
対する彼は言葉を続きを待つように、相槌を打つ。
「あなたは、どうして怨霊として蘇ってまで、平家の再興を望んだのですか」
「……!」
のその言葉は、少し意外だったようだ。
彼は、目を見開いた。
「ずっと、気になっていたんです」
差し支えなければ、教えて頂きたいのです。
そう続けたに、彼は黙ったまま立ちすくむ。
……答えたくないのか、それとも答えられないのか。
理由は解らないが、とにかく、彼は未だ口を閉ざしたまま。
そんな彼の様子を見て、は再び言う。
「……それでは、質問を変えます」
彼女のその言葉に、彼が再び彼女の方を見る。
「あなたが怨霊として蘇ってまで平家の再興を望んだのは、
再び平家一門の皆で、華やかな暮らしを送りたかったからではないですか?」
先ほどの問いかけのときよりも、彼は驚きを見せなかった。
何故ならば、理解したからだ。
……彼女は、全て見透かしているのだと。
「亡くなった兵たちを次々と怨霊にし蘇らせ、源氏との戦いに出す……。
結果源氏にも多大な被害が出たり、怨霊が増えたことで
あの世界は陰の気に支配されひどい状態になっていた」
でも、そうまでしてもあなたが平家の再興を望んだのは。
「再び一門全員で平和に暮らしたかったからでは、ないのですか」
何をしてでも、何と引き換えてでも、それを望んだ。
あなたのしてきたことは、その結果だったのではないのですか。
……の口調は、いつの間にか問いかけではなくなっていた。
断定しているものになっていたのだ。
「…………そなたには、敵わぬようだな」
一癖も二癖もある我が子らを救ったのだ。
敵うと思う方が、間違いだろう。
彼は、ふと、そう思った。
「確かに我はそれを望んだ。
だが……我のしてきたことは、源氏に与した彼の神と変わらぬ」
自分の使える者のためにと、邪魔なものは全て排除してきた異国の神。
その力を振るい、多くのものをねじ伏せてきた。
「……けど、荼吉尼天も同じだったのかもしれません」
その望みはきっと、単純なものだったのだろう。
単純で、それでいてとても純粋な。
ただ、やり方を間違ってしまっただけ。
あたしたちはただ、それが間違いだと理解できただけ。
「あたしたちとあなたたちの違いは、たったそれだけだと思います」
――そう、だから。
もう縛られないでください。
「縛られず、自由になってください」
それが、あたしの……
あたしや将臣くん、知盛、重衡の願いだから。
その言葉を聴いた彼は、ふと、優しく微笑んだ。
「どうやらそなたは、最後に我をも救ってくれたようだ」
感謝する、と言い残し、彼は姿を消した。
「どうか、安らかに眠ってください――……」
追加メンバーへの指令:さんと会ってきて!
(旅立った先の世界で、あなたが、一門の皆と笑い合えていますように)
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遙か十周年記念企画、追加メンバーの幻影Ver.でした!いかがでしたか?
あんまり清盛は好きではなかったのですが、迷宮で幻影になって、
なんてゆうかけっこう悲劇なキャラ(?)だな、と思いました。
姿が少し青年風になっているから、思考も変わったのかな、とか色々考えたり。
そういうえば初めて会ったとき、敦盛は若干気づいていましたよね。
ゲームではそういうシーンはありませんでしたが、きっと、知盛や重衡は気づくと思う。
だって自分のお父さんだもんね。
千夜的に3の十六夜ヒロインは重衡の正室になるので(え
清盛にはすごく丁寧な口調にしてみました。義理とはいえ、仮にもお父さん。
しかも偉い人なんだもんね。そりゃ畏まりますね。
清盛の望んでいたことに関しては管理人の勝手な想像ですが
あながち間違っていない……ということだといいなぁ、と思います。
あくまで願望ですので、信じないでくださいね。
とにかく、最後までお付き合い頂き、ありがとございました!
追加メンバー色々とあれですが(?)、お楽しみ頂ければ幸いです^^
宜しければ別Ver.もご覧くださいませ!
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